※サムシングのなかなかな様が書かれた『大吉でしょう』と勝手にリンクしていますので、先に本家様を読むことをオススメします。
便乗して小学生久藤くんと高校生望です。
自分設定てんこ盛りですのでご注意ください。





 お父さんとお母さんは「嘘を吐いてはいけないよ」と僕に言うけど、僕に言わせて貰えばそれこそ嘘だ。だって、みんな嘘つきだ。お父さんとお母さんは互いに嘘をついているし、クラスメートも先生も嘘つきだ。
 お父さんもお母さんも、僕を腫れ物を扱うように恐る恐る接してくる。気持ち悪いならそう言えばいいのに、気遣っているのか何も言わない。まぁどちらにしても、二人の考えていることがわかってしまう僕には彼らの気遣いは無意味だったのだけれど。

 自分は他人と違うということは気付いていたし、他人と違うことは“ヘン”なのだということも知っていた。そしてそれが恐怖の対象であり、子供社会では排除されてしまうのだということも。ただ、それを僕が知ったのはクラスメートから仲間はずれにされてからのことだった。つまりは遅すぎたのだ。






 木に引っかかった青い布を見つめて、僕はため息をついた。クラスメートに取り上げられ、投げたりしているうちに引っかかってしまったのだ。彼らは既に帰ってしまっていて、公園には僕以外に人影もない。どうしたものかと再びため息をつく。あのマフラーはおじいちゃんが「准に似合うだろう」と言ってクリスマスにプレゼントしてくれた大切なマフラーだ。放っておく訳にはいかない。
 その時、聞き慣れない“声”が耳に入って振り返る。メガネをかけた高校生がじっとこちらを見ていた。僕は少し警戒しながら彼を見た。目が合う。

『やっぱり見て見ぬフリは出来ないよな…』
「…えっと、どうしたん、ですか」

 躊躇いつつも高校生は僕に声をかける。小学生相手に敬語はおかしかったかな、でも癖なのだから仕方がない、などとごちゃごちゃいろいろなことを考えているみたいだったけれど、そこに敵意がないのがわかって僕は警戒心を解いた。

「…マフラーを落としてしまったんです」

 わざわざ本当のことを話す必要もないと思って、適当にそれらしい理由を並べる。高校生は僕と木に引っかかったマフラーを交互に見て、何やら考え込んでいた。
 この高さなら私でも大丈夫そうだ、でも私は生まれてこの方一度も木登りなどしたことがないし、落ちたら怖い、怖いけど放っておく訳には…。
 そんな恐怖とか何やらが混じった状態で「大丈夫、私がとってきてあげますよ」なんて言われても、心配するなと言う方が難しい。どうやらそれは僕の表情にも現れていたようで、それにショックを受けたらしい彼は少し涙目のままくるりと木に向かう。
 幹に手を伸ばし、低い所の出っ張りに足を掛けた。そのままゆっくりとよじ登っていく。マフラーの引っかかった場所は僕にはかなり遠かったが、彼からすればまだ近いようで、左手を少し太めの枝に掛けて体を支えつつ右手を伸ばせば、指先がマフラーに触れる。それにほっとした瞬間、ばき、と嫌な音を立てて彼が左手を掛けていた枝が折れ、彼は雪の上に落ちた。
 慌てて彼の方に寄れば、その右手には青いマフラーがしっかりと握り締められていて、「素敵なマフラーですね」と彼は柔らかく微笑む。その言葉はどうやらお世辞ではないようで、僕は何だか嬉しくて小さく笑った。
 折れて落ちてしまった枝を見ると、けっこうな太さがある。余程年をとっていたのだろうかと思っていると、彼は少し眉を下げつつ「今日は厄日なんです」と言った。
 厄日、という言葉に、僕は思いついてしまった。思いついてしまってからはそれを我慢できなくて、つい口からは創作の童話が溢れだす。
 そして喋り終わってから、やってしまった、と後悔した。普通は、こんな風に急にペラペラと語りだすような子供は“ヘン”なんじゃないか。だから僕は、こんな風に話を思いついてもおじいちゃんにしか話したことがなかったのに。おじいちゃんはいつも「准はすごいなぁ」と言って笑って頭を撫でてくれる。でもこの人はおじいちゃんじゃないのだ。
 苦々しく思いつつ彼の方に視線を向けると、驚いたことに彼はボロボロと涙を流していた。彼は僕の視線に気付くと「泣いてませんよ!」と慌てて口を動かす。雪が目に入ってしまったのだと。
 それは確かに嘘だった。嘘は嫌いだった。暗くてドロドロしていて、悪意の塊だった。でも、この嘘はそういう嘘じゃなかった。何故だかわからないけれど、温かい気持ちになる。
 視線を上空に向けて、それからもう一度彼を見た。彼は気まずかったのか、恥ずかしそうにしている。それに再び微笑んでから、ありがとうございますと言うと、「こちらこそ」と笑った。


 小さく会釈して公園を後にする。青いマフラーはしっかりと首元に巻かれている。ランドセルの肩紐をぎゅっと握りしめて歩くと、何やら足取りが軽く感じた。

 僕が物語を話し終えたとき、彼は心の中で僕のことを“天才だ”と言っていた。ぜんぜん“ヘン”なんかじゃなくって、凄いことなのだと。それだけのことが僕には嬉しくて仕方がなかった。彼との出来事は本当はとても短い間のことだったのだけれど、僕にはとても大きな何かだった。





 それから少しして、いろいろなことがあって、その結果僕はおじいちゃんの所に住むことになった。おじいちゃんの家は今住んでいるところから遠く離れていて、僕は転校しなければならなかった。おじいちゃんと一緒に暮らせるのはとても嬉しかったし、学校にも良い思い出なんてなかったから別に問題は無かったのだけれど、ただ、あの高校生と会えなくなってしまうということはとても寂しい気がした。
 だけれど同時に、彼とはまたいつか必ず出会えるのだという思いが僕にはあった。そう思うことにちゃんとした理由なんてなかったけれど、それは確信に近い思いだった。



理由なんてない



―…―…―
ぜんぜん久藤くんが小学生らしからぬ感じですな


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