※静臨、裏注意
※気付かない愚かさを笑うことすら出来ずと同じ軸の話になります。









 苛々する。何にそんなに苛々しているのかは、自分でもはっきりわからない。それに更に苛々する。悪循環だ。クソ。

 この、理由のわからない苛々を、俺はかなり長い間感じ続けている。いつからか、と言われればあまり覚えてもいないが……多分、まだ俺が学生だった頃からの感情のはずだ、この苛々は。臨也に苛々するのはいつものことで、それは俺が臨也の事が嫌いだから、だと思っていた。実際そうに違いない。出会えば直ぐに喧嘩して、そしてセックスをして。
 俺たちの関係は、所謂セックスフレンドのようなものだった。フレンドって言うほど仲も良くない。ただ、性欲を処理するだけの行為。誘ったのは臨也だった。高校時代。オレンジ色に染まった床に転がるいやらしい臨也の姿を、今でも思い出せる。あれが、俺の初めてだった。臨也が何を思って俺を誘ったのかは知らないが、その関係はだらだらと、この年になった今でも続いている。






 シズちゃんに会いたくなったの。
 仕事がようやく終わって、真っ暗な俺の部屋の中にいた臨也が最初に言ったことだった。どうやってこの部屋の鍵を開けたのかは知らないが、コイツなら何だってできるだろうから全く気にしない。
 それにしてもわざわざコイツがここまでやって来たということが珍しい。普段、俺たちがセックスするのは大抵が臨也のマンションだった。少なくとも俺の部屋でしたことは、まだ一度もない。臨也はどこか気だるげな様子で真っ暗な俺の部屋のリビングのソファに、ただ居座っていた。
 電気くらいつけとけよ、と声をかけると、忘れてたんだよ、と一言。どこかいつもと違う、そう思ったものの、気のせいだと思い無視する。そういえば、前にコイツとセックスしたのはいつだっただろう。一週間は軽く会っていなかった気がする。そんなことを考えていると、沈黙を作ってしまっていた。珍しい。それは、臨也が何も喋らないことに起因する沈黙だ。この、口から生まれてきたんじゃないかと思ってしまう程に口がよく回るコイツが、一言も喋ろうとしないなんて。何か話しかけるべきだろうかと思案していると、たっぷりとした沈黙の後に、ねぇシズちゃん、と小さく臨也が口を開いた。小さな形の良い頭が俯いていて、ソファの前に立った俺からはその白い首筋がよく見える。だから、見つけてしまった。真っ白な項に残された、紅い、

「シズちゃ――、っうあ……!!」
「……イザヤくんよぉ」
「な、なに……ちょっと、やだ、!!」

 俺は衝動のままに臨也をソファから落として床に押し倒し、臨也のコートと黒いインナーを剥ぎ取っていた。カーペットなんて敷いていないフローリングのそこは、いくら春先とはいえかなり冷たい。だがそんなことを気遣う余裕なんてなかった……臨也の背中に残った、大量の紅い痕を見てしまったから。
 今まで幾度と無く臨也とセックスをしてきて、臨也が他の男ともしているのだと何度も口にしていたのは確かだが、実際にこうして生々しく俺以外の人間との情事を思わせるような痕跡が残っていたことはなかった。初めて見た、他人の痕跡に、今までにないくらい苛々が募る。くそ、何だよ。わけわかんねえ。
 俺はうつ伏せになった臨也を背後からがっしりと押さえつけ、耳元で囁いた。

「そうかい、今までお楽しみだった訳か」
「え、……」
「で、それだけじゃ物足りないから俺の所に来たんだろ?」
「や、シズちゃ、……っあ!」

 がりっ、と耳朶に噛み付き、両胸の突起に強く爪を立てる。必死に身体を捩らせて逃れようとする臨也が気に入らなくて、ムカついて、臨也のズボンから引き抜いたベルトで両腕を縛り上げていた。

「や、いやだ、……やだ……っ!」
「痛くされて感じる淫乱のくせに何言ってんだよ」
「ち、ちが……ひっ! やだ、やだやだぁっ……っ!!」
「こんなされて起たせて、ぐちゃぐちゃにさせてるくせに信憑性ねぇんだよ。それともアレか、手前の否定はそういうプレイか」

 ぼろぼろと臨也が泣いているが、気にせず下肢をぎゅっと握り込む。ここにも別の男がついさっきまで触れていたのか。苛々する。クソ。後孔に指を這わせれば、案の定弛んでいたそこは簡単に3本の指をくわえ込むようになる。何も濡らすものなど使っていない。それなのにぐちゅぐちゃと派手に音が鳴るのは、紛れもなく中に残された他の男の白濁のせいで。

「中にたっぷり出されたみたいじゃねぇか」
「やだ……っ、やだぁ……、もう、許し、て……」
「……クソが、」
「ひ、やだ、やだぁっ……っああぁあああぁっ!!」

 ガツガツと後ろから打ち付けると、臨也は頭を振って泣きわめいた。中に残った他の男が気に入らなくて、それを掻き出すように自身を動かす。ここは、俺の、俺だけの。
 臨也の口から上がるのは嬌声と言うよりは悲鳴の方が近くて、更に苛々を倍増させる。他の男に抱かせておいて、今更何なんだよ。クソが。

「足りなかったんだろ、否定とかしてんじゃねえよ淫乱」
「あぅっ……っ! 、もう、や、だぁ……っああああぁああ゛あッ!!」

 ぐちゅぐちゅと律動を繰り返し、臨也の感じる部分を思いきり付き込むと同時に臨也自身の先端に爪を立てれば、一際高い声を上げて達した。その際の締め付けに、中に大量に吐き出す。一滴も溢さないように、俺だけで、ここを満たすように。

 はぁはぁと荒い息のまま、しゃくりあげる臨也から自身を引き抜く。駄目だ、苛々が治まらない。臨也の後孔からは俺が出した白濁が溢れていて、フローリングに小さな溜まりを作っていた。何でコイツは泣いてんだよ。クソ、苛々する。

「……帰れ、」
「っあ、…は、……シズちゃ、……」
「いいから帰れよ。他の男の所にでも行け。俺の前に顔見せんな」
「シズ、」
「出てけって言ってんのがわかんねえのか」

 近くのテーブルの上に置きっぱなしだったカップを、ぱきりと粉々にする。このままだと、臨也を殺してしまうんじゃないかと思う程の苛立ちだった。剥ぎ取っていた臨也のシャツとコートを投げつけ、ベルトで縛った両腕の拘束を外してやる。

「……、シズちゃ、ん」
「帰れ……二度と来んな……クソが」
「……、ごめん、ね……?」

 思いがけない謝罪の言葉に視線を臨也に向ければ、臨也は涙を流しながら、……笑っていた。半端に下ろされたズボンと下着をたくしあげ、シャツとコートを羽織り、笑ったまま……臨也はこの部屋を出ていった。

 クソ、何なんだよいったい。ふざけんな。クソが。煙草を取り出し、火をつける。肺いっぱいに吸い込んだ煙が心地よかった。臨也のことなんて、考えたくもなかった。


 窓を打つ雨音に視線を外に向ける。外はどうやら、今までまったく気付いていなかったことが不思議なくらいの土砂降りのようだった。






傷付いても笑うだけの
愚かさには長け










2010.2.28
75000hit企画
静臨/独占欲の強い静雄、できれば裏


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