※静臨、来神時代
※裏注意











「ねぇシズちゃん、俺とさぁ」

 それは俺が臨也と出会ってからこれまで、幾度と無く繰り返された喧嘩・喧騒の後のことだった。臨也の綺麗な目が細められて、誘うように口を開いた。

「セックスしてみない?」





 どうせシズちゃんって童貞なんでしょ? そんな馬鹿力で女の子抱いたりしたら、女の子死んじゃうだろうしね。ああ、そもそもシズちゃんには寄ってくるような女の子もいなかったか。そんなシズちゃんを可哀想に思った俺はね、シズちゃんに抱かれてあげるよ。このままだと一生童貞だろうしねぇ。俺? あは、それ俺に聞いちゃうんだ。もちろん経験あるよ、女も、もちろん男もね。案外男もいいもんだよ。ああ、抱く側からしたら突っ込めばいいわけだから男も女も一緒さ、穴が違うだけでね。俺は男を抱いたことはないけど……経験ならある。言ってる意味、わかるだろ? 男とするときは抱かれる専門なの。いやあ、男っていいね。女だったら、受身しか出来ないじゃないか。男だからこそ、突っ込んだり突っ込まれたり楽しめる。
 そういう訳で。 俺とセックスしようよ。




 放課後の教室だった。俺の教室だった。俺は臨也の頭がとうとう狂っちまったのかと思った。射し込んでくる夕日が眩しくて、痛くて、机もオレンジ色に染まっていて、ゆっくりと近付いてきて俺のシャツのボタンを外そうとする臨也を止めることが出来なかった。
 別にセックスそのものに興味があった訳でもない。いや、まったく興味がなかった訳ではないが、こんな自分だからこそ、どこか自分とはかけ離れたものだと感じていた。だから、こんなおかしな状況に戸惑ってしまったんだ。そうに違いない。そうでなければ、かちゃかちゃと俺のズボンのベルトを緩め、下着越しの性器に顔を寄せる臨也をそのまま傍観してるなんて有り得ないはずだ。
 いつの間にか窓際に追いやられていた俺は、ぼんやりと俺の足元に跪く臨也の黒い頭を見下ろしていた。布越しに触られて、自分でも少し反応しているのがわかる。臨也は一度上目でこちらを見る――欲情した目、そしてそのまま下着の中から俺の物を出して……ゆっくりと口付けた。

「っ、ザヤ、」
「ふぁ、……む、んっ」

 ちょっとした刺激で緩く勃ち上がってしまった俺の物を、両手で支えながら臨也は舐め始めた。やはり慣れているのだろうか、臨也の舌の動きに簡単に翻弄されている自分に腹が立つ。最初は舌で舐めるという、猫がミルクを飲むときのような動きしかしていなかったというのに、いつの間にか口内に含まれていて、臨也が喉をならす、たったそれだけで俺は息を詰まらせてしまう。人の口の中と言うのはこんなにも熱いのか。頬の内側の柔らかな熱い肉で先端を擦られたり、軽く甘噛むように歯を立てられたりして、簡単に追い詰められてしまった。
 目を瞑って、ん、ん、と鼻から息を抜く臨也を見下ろしていると、よくわからない感情に支配されそうになる。普段は殴ったり切ったりの喧嘩をしているコイツが、俺の足元に跪いて、こんなことをしている。なんだこれ。何なんだ。

 ――俺? あは、それ俺に聞いちゃうんだ。もちろん経験あるよ、女も、もちろん男もね。
 ――男とするときは抱かれる専門なの。

 何故だか、この足元に跪く男を酷くしてやりたいという衝動に駆られた。臨也の頭をがしりと掴んで固定して、無茶苦茶に腰を揺する。突然の事に驚いたらしい臨也はその目を見開いて頭を退こうとした。が、それをさせず、喉の奥まで突き刺す。臨也の両目に涙が浮かび、零れ落ちた。ギリギリまで臨也の口内を蹂躙し、達する直前で引き抜く。どろりとした白濁が、臨也の顔と、黒い学ランにも少し飛んだ。

「は、っ……」
「っ、シズちゃんったら、……っはぁ、乱暴……」

 頬に付いた白濁を指で掬って、真っ赤な舌先で舐めとる、その行為にも煽られる。おかしい。コイツは折原臨也だ。俺のことが嫌いで、俺もコイツが嫌いで、それなのに。気付けば俺は臨也を押し倒していて、オレンジ色に染まった床の上に、いやらしい臨也が転がっていた。臨也の口角が上がる。白濁に濡れた頬が、うっすらと赤く染まっていて。

 ――もちろん経験あるよ、女も、もちろん男もね。

 この姿を、何人もの男が、見ているのか。何だこれ。何なんだ。

 ――男とするときは抱かれる専門なの。

 何だ。クソ。訳わかんねぇ。コイツの、こんな余裕そうな顔がムカつく。苛々する。あり得ねえ。これじゃ、まるで。

「ねぇシズちゃん、」
「……ぁ、?」
「……続きは?」

 俺は、理性が切れる音というのを初めて聞いたかもしれなかった。
 それから先のことはよく覚えていない。準備しないと簡単には入らないんだから、と言って半端に膝までズボンと下着を下ろし、自ら後ろに指を這わせて俺に見せつけるようにぐちゅぐちゅとそこを探る臨也とか、俺の机に手をついて、後ろから揺すぶられる臨也とか。胸の突起や臨也自身に爪を立てれば簡単に上がる上擦った声も。中に吐き出せば満足そうに笑うその顔も。すべてが断片的で、断続的で、訳がわからなかった。気付けば何度も臨也の中に吐き出していて、俺よりも体力のない臨也は意識もかなり薄れているようだった。ぱくぱくと臨也の口が何か言いたげに動いて、後ろはひくひくと誘うような動きをしていて、ぐちゅりと卑猥な音を立てるそこを再び奥まで突き刺す。その衝撃で、臨也はまた達した。その精はもう透明に近くて、臨也の学ランは正直、もうぐちゃぐちゃに汚れていた。
 臨也が達する直前に、何か、喘ぎ声ではなく、別の言葉を言っていた気がする。確かめようとしたけれど、達するとほぼ同時に臨也は意識を飛ばしていて、それは叶わなかった。そして俺は、意識を戻した臨也にそれを確認しようとはしなかった。



(この時、きちんと確かめていたならば……または、苛々の正体に、俺が気付いていたならば、俺たちはもっと違う関係でいられたかもしれなくて。)
(だけどこの時の俺がそれに気付くはずもなく。)



(ただこの時の俺は、やりようのない苛々を抱えたまま呆然と臨也を眺めることしか出来なかった。)








気付かない愚かさを
笑うことすら出来ず








2010.2.26
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静臨/来神時代、裏


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