そろそろ、終わりにしようか。は? 手前、いきなり何を。こんな関係、不毛だよ……男同士でセックスして、全く生産性がない。……そりゃ、生産性っつったらそんなもんはねぇけどよ。だから、終わりにしよう。おい。終わりだよ、明日からは、昔みたいに……見つけたら喧嘩して別れるだけの、そんな関係、でさ。臨、也。ばいばい、シズちゃん。

 行為の後の気だるい空間で、臨也は体を起こし、素肌にシャツを引っ掻けてそのままベッドから離れようとする。おい待てよ、と声を掛けて、同時に臨也の細い腕を引っ張った。軽く引いただけなのに、その体は簡単に引き戻される。そしてその薄い体を自らの下に置いた。仰向けのまま、臨也がこちらを見る。


 なんだよ、そんなに俺の体が好きなの。


 深紅の瞳が、揺れる。先程までは軽口を叩くようにしていたくせに、その声は、目は、既に笑っていない。臨也は、本気だ。本気でこの関係を終わらせようとしている。恋人でもなければ友人でもない、ただの性欲処理のためだけのこの関係を。
 確かに俺だって、このままの関係をずっと続けたいなんて、そんなことを思っている訳ではない。だが、これ以外に、どうやってコイツを繋ぎ止めればいい。何かあれば直ぐに逃げて、拒否して、いなくなってしまうようなコイツを、どうやって引き留めれば。


 俺はさ、こんな関係、もう嫌なんだよ。だから、お願いだから離して。


 俺から逃れようと、臨也がもがく。が、臨也が力で俺に敵うはずがなかった。離して、離して、と抵抗する様は駄々を捏ねる子供のようで。ああ、そうか。俺はこいつを手離したくないのだ。ならば、手離さなければいい。


 そんなに言うなら、終わらせてやるよ。


 その言葉に、臨也は驚いたような安心したような表情を浮かべた。じゃあ、早く離してよ、と吐き捨てるその口を自らのそれで塞ぐ。息を奪う、奪う。しばらくそうしていると苦しくなったのか、臨也は空いている手で俺の胸元を叩き、押し返そうとしてきたので、そこでようやく口を離した。臨也の目元には、うっすらと涙が浮かんでいる。


 この関係なら、終わらせてやる。俺だって、早くこの関係を終わらせてぇって思ってたところだしな。


 荒い息のまま、臨也がこちらを見上げる。ああ、くそ、そんな目で見てるんじゃねぇ。


「セフレなんてなぁ、こっちだって望んでねぇんだよ。それだけで良いわけがねぇだろうが」
「え……?」
「終わりだ、手前の言う通り、終わらせてやる、臨也。俺はもう、我慢なんかしねぇ」
「……、は、? ちょっとシズちゃん、意味わかんないんだけど」
「手前は、もうずっと俺の傍にいやがれ」


 ゆっくりと、噛み締めるように口にする。これだけじゃ言葉が足りなかったか? とも思ったが、頭の良い臨也はたったそれだけでも俺の言いたいことを悟ったようだった。色の白い頬が、ほんのりと赤く染まる。


「……なにそれ、プロポーズのつもり?」
「指輪は今はねぇけどな、後で買ってやるよ。式だって挙げてもいい。なんでもしてやる。籍を入れてもいい。養子を貰ってもいい」
「……ちょっとシズちゃん、恥ずかしいんだけど」
「そうだな、一生離さねぇ。手前は俺のモンだ」
「……ばぁか、」


 笑いながら、臨也が泣く。もう逃げられねえからな。そう言うと、臨也はいつもと同じように、あの、人を喰ったような……でも、すべてを受け入れたような笑みを浮かべて、言った。



もう離さないから覚悟して




2010.6.24
企画「戦争遺伝子」提出作品


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「見えない臓器の名前は」
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