※静臨
※君が眠りについたときの臨也視点というか
触れてくる体温に反応しないようにすることに必死だった。
職業柄というか、元から眠りが浅い方で、どんなに疲労困憊して意識を飛ばしたとしても10分もすればある程度回復する。特に、この男の隣で眠るなんてそんなこと恐ろしくて出来るはずがなかった。眠っている間に、首を絞められて殺される可能性はゼロではない。シズちゃんはそういうことをするタイプではないとわかっているけれど、それでも無理なものは無理だ。本当は意識を飛ばす10分間ですら気が気ではなかったのだ。
ふに、と固くて少しかさついた彼の指先が俺の唇に触れる。
いつからだろう。彼が、行為の後にこうして俺に触れるようになったのは。いつからだろう、気付かないフリをして、眠っているように振る舞うようになったのは。
――キスをしようよ、と行為の最中に誘えば、馬鹿みたいだと一蹴するくせに。
彼の唇が首筋に寄る。鼻孔から漏れる小さな息が擽ったい。頬も、額も、瞼も鼻も顎も耳も、全てを彼の唇に支配される。俺が眠っているから。眠っているから。
眠っている間だけの甘さを、彼の髪のように眩しい蜂蜜のような甘さを享受したいのならば、俺は目を覚ましてはいけないのだ。
なんて皮肉。お姫様を目覚めさせることだってできる魔法の口付けは、俺たちにとっては死に至る呪いのようだ。目を覚ましてはいけない。反応してはいけない。恋人同士のような甘さを、熱を、求めてはいけない。
彼の唇の柔らかさを、俺は知っている。ナイフも突き刺さらない馬鹿みたいな体なのに、そこは人並みに柔らかい。
でも、目が覚めたら忘れなければいけないのだ。気付いていないフリをして、いつも通り殺し合いの喧嘩をして、熱を発散させるためのセックスをして、眠りについて。
俺は知らない、気付いていない。彼の唇の柔らかさも甘さも、全て、目覚めたら忘れる。それでいい。そうでなければ、つらくてくるしい。
蜂蜜色の夢の中
(眠っている間だけで構わないから、この甘さに浸らせて、溺れさせて。)
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(リアタイSSログ)