※静臨
※静雄視点、事後描写注意











 こいつがこうして無防備に寝顔を晒すのは、今だけだ。
 セックスの後。眠ると言えば聞こえはいいが、つまるところはただ疲弊して、失神しているだけだ。意識などない。眉間に寄った皺が、体力の消耗を訴えている。
 汗で額に貼り付いた髪の毛を払ってやると、ぴくりと臨也の肩が揺れた。起こしたか、と慌てて触れた指を離す。が、臨也は目を覚ます気配もない。そうとう疲れているらしい。臨也が気を失う前までの行為を思い返す。臨也の言葉に煽られて、乱暴に臨也を抱いた。

(……ずっと眠ってればいいのにな)

 少なくとも、こいつの顔は嫌いじゃない。声も、嫌いじゃなかった。ただ喋る内容が駄目だ。性格が悪すぎる。ずっと、ずっとずっと、変わらずにそうなのだ。これからも変わらないに決まっている。

 目を覚まさない臨也の唇に、指を押し当てた。全体的に細くて、肉付きの悪い臨也は正直抱き心地は最悪だ。けれど……けれど、唇だけはひたすらに柔らかい。ふにふに、と臨也を起こさないように唇に触れる。

『化物は化物らしく乱暴にしてればいいんだよ』

 臨也に触れる指先が、自分でもおかしいと思うくらいに優しくなっていることには気付いていた。理由なんて、知らない。いや、知らないのではなく、知らないフリをしているだけだ。

(このまま臨也が眠っていれば)

 臨也を起こさないために、と、壊れ物を扱うような自分の指先も正当化できるのに。
 ただ抱き締めたいのに力加減がわからない。臨也の細い身体は、力を込めれば直ぐに壊れてしまう陶磁器を思わせた。

 力を抑えるな、と臨也は言った。俺は化物なのだと、罵った。

 優しく触れる、恋人同士のソレのような指先が嫌いなのだと。
 別に好きでそう触れている訳じゃない。力加減がわからないだけだ。決してこいつを、今、俺の横で無防備に寝顔を晒すこいつを、壊してしまわないようにするためじゃない。俺は、こいつがどうなろうと構わないはずなのだ。



 こいつが俺の隣でただ眠る日など来ない。こうしてセックスで気を失うだけだ。わかっている。こうして唇に触れる指先も、今だけ。恋人同士のような、感傷に浸ることはあり得ない。そんなの気持ち悪いに決まっている。
 俺はこいつを殺したいくらいで、それはこいつも同じで。こいつは俺に優しく触れられたくない。俺だってこいつに優しくしたいと思っている訳ではなくて。力任せにこいつに触れればそれで問題は全て解決するのに、どうしてもそう出来ない。
 力加減がわからないというのは、本当に困ったものだ。
 全てを、コントロールの難しい化物染みた自分の力のせいにして、俺は臨也の横で目を閉じた。






嘘つきは静かに自嘲する







*――*――*
互いにすきだと認められない二人が好きです。
うそつきは甘い夢を見るかの続きのような話でした。

臨也→シズちゃんに「すき」は言わせられないと思ったけど、
シズちゃん→臨也でも「すき」と言わせるのは難しいと思いました。


(リアタイSSログ)


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