※静←臨
雨音が酷く耳に障る。室内の静寂をじわりと侵食していく雨音が、春先の少しだけ生ぬるくなった空気を震わせた。
「シズちゃん」
握り締めた電子機器は何も言わない。煩いのは雨音だけだった。真っ暗な部屋で、緩く波打つシーツの上に身体を投げ出す。
「シズちゃ、ん」
声はどこにも届かない。身体を小さく丸めてみたが、部屋の空気も、雨音も、何も言わない電子機器も、何一つ変わらない。もしかしたら、声なんて出ていなかったのかもしれなかった。鼓膜を震わせるのは、窓を打ち付けるねっとりとした雨だけで。
「月は見えるかなぁ」
身体を少しだけ起こして、窓の外に視線をやった。こんな雨の夜に、月なんて見えるはずもない。月が見えたらいいのに、とぼんやりと思った。そうしたら、この声は届く。
「シズちゃん、 、」
生ぬるい静寂。月は見えない。静寂は直ぐに掻き消され、雨粒が再び窓を叩く。
(雨の夜に月が見えれば、本当のことを言おうって決めている)
願いは、未だ叶わず。
銃声のような雨の音に、静かに、目を閉じた。
雨夜の月
――願うだけで決して叶うことのない願いのこと
*――*――*
センチメンタル臨也さん
雨夜の月の意味は、調べたのが今から2年以上前なので、正直あんまり覚えてないです
(リアタイSSログ)