※来神時代捏造
※なんか仲良し











「臨也ってナイフの使い方は上手なのにねぇ」
「……うるさい」
「なんでじゃがいもの皮にこんなに可食部が残っているのか、不思議でならないよ」



 今回の献立は肉じゃがと焼き魚、人参と水菜の味噌汁、ほうれん草のお浸し、ご飯。何の話かといえば、アレ。調理実習。
 ブツブツ文句を言いながら野菜の皮向きに必死になっている臨也をからかいつつ隣のテーブルに視線を向ければ、同じ実習班に割り振られてしまった京平と静雄がテーブルを挟み向かい合わせで立っている。

「ああ静雄、悪いが包丁をとってくれ」
「お、おう……っ」
「静雄、大丈夫か?」

 ……静雄の様子がおかしいのには気付いていた。どこか落ち着きがなく、先ほどから普段では考えられないような失敗ばかりしていた。今だって、包丁を取るというだけで指を切ってしまったらしい。京平からしたらびっくりだろうなぁ……と他人事のように考える。まあ俺は静雄の態度の理由を知っているから別に気にしてもいないけど。

「なに、シズちゃん指切ったの?」
「みたいだねぇ」
「ナイフは刺さんないのに変だよね」
「あは、解剖してみたいな」
「そんなの俺が許さないよ?」

 じゃがいもの皮向きを終えた臨也は(さながら惨殺死体のように無惨になってしまったじゃがいもには合掌することにしよう)、ひょこ、と隣のテーブルに寄る。京平の背中に貼り付き、向かい側の静雄を覗き込んだ。

「シズちゃん大丈夫ー? 指切るとかダサいよね本当!」
「うっせぇ、黙れ……これくらい、舐めときゃ治る傷だろ」
「ふーん……」

 静雄の言葉を聞いた臨也は、京平の後ろを離れて反対側に回り、静雄の手を取る。ああ、また面倒なことにならなければいいなあ、とか考えながら僕は他の野菜を切る作業に移る。

「ナイフ刺さんないくせになんで包丁で切れるかなぁ」
「知らねえよ、離せ」
「ちょっと待ってね」

 言うが早いか、臨也は……静雄の傷口を、舐めた。これには静雄だけでなく、京平の動きも止まる。ついでに言うと他のクラスメートもそうだったのだけれど、彼らはすぐに「見てはいけないものを見たときにはスルーすべし」という我がクラスの掟を遵守すべく作業に戻っていた。「ん、ちゅ……はい、ばんそこ」
「お、おお……」
「あっそうだドタチン、俺の分も魚さばいてよ」
「……、あ、……臨也?」
「俺さぁ、草食動物のウサギさんだから、魚とか触れないんだよねぇ」

 お願い、と首を傾げる臨也に、京平は小さく頷いた。以前から思っていたけれど、京平は臨也に甘い。臨也はそんなにも魚を触らずに済むことが嬉しいのかスキップでこちらのテーブルに戻ってきた。

「ただいま新羅」
「おかえり臨也……はあ」
「どうしたの、溜め息なんて」
「いや、何でもないよ? ……傍観者的には、とても楽しいしね」
「? なにが?」
「当事者は、自分が台風の目だとは気付かないものさ」
「どういうこと?」
「なんでもないよ」

 そう言って隣のテーブルに視線をやる。無言で包丁を握る二人のぎこちない動きについ笑いが溢れる。父親と、娘の彼氏ってあんな感じになっちゃうのかな……ああ、セルティのお義父様に挨拶にいくことが出来ないことが残念でならない。私なら、セルティの家族親戚知人友人全てに受け入れて貰える完璧な彼氏として振る舞うのに!






オレ、草食動物だから







 いただきます、の合掌。無惨なじゃがいもと少し焦げた魚以外は特に問題のない出来栄えだ。

「ほら臨也、ちゃんと野菜も食べろ」
「……人参もさ、きちんと望まれながら食べられる方が幸せだと思うんだよねぇ」
「文句を言わない。食べないなら今日のおやつは抜きだ」
「……今日の、おやつ……なに?」
「プリンだ」
「……! て、手作り?」
「ああ」

 ああもう、京平と臨也の会話は完璧に親子のようだ。静雄がなんだか可哀想に見えてきた。

「ほら、好き嫌いとかするな」
「だって……」


 自分から草食動物のウサギさんだよって言ってたのはどこの誰だったっけ? というツッコミは、まあ多分、届かないんだろうなぁと思った。







2010.4.7
企画「僕らの戦争」提出作品


BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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