※ショタいざにゃんとドタチン
明け方。
ふええ、と気の抜けたような声に、いったい何事かと慌てて飛び起きれば、その黒い猫耳をへたりと垂れさせた臨也が俺のベッドの横に立っていた。
「どたちん……ふぇ、っ、」
「い、いざや……!?」
「ごめんなさああい……!」
どうしたのか、と声をかけようとその頭を撫でようとするが、臨也はビクリと身体を震わせて泣き出してしまった。大きな瞳からはぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちている。何をこんなに謝っているんだ、と臨也をよく見てみると……なるほど、これか。
「きのう、こわいテレビ、見て、……っふぁ、おれ、……トイレ、行けなくなっちゃって……っ」
「そうか……」
……そう、臨也のパジャマのズボンは、薄く黄色い染みで濡れていたのである。
人間と動物の合成実験により産み出された愛玩動物【ネコ】の一種である臨也は、その名の通り黒い猫耳と尻尾をそなえている。それさえ除けば見た目は普通の小学校中学年程度であるが、中身は幼稚園児レベルだった。
「だから昨日、夜更かしするなって言ったのに」
「だって……」
「はぁ……仕方がないな」
昨晩やっていた心霊番組をうっかり好奇心から見てしまったらしい臨也は、深夜にトイレに行けなくなってしまったらしかった。濡れたズボンが気持ち悪いのか、臨也はどこか落ち着きがない。
「ごめんなさい、ごめんなさいどたちん……!」
「……仕方がない、とりあえず着替えだな」
「……怒らないの?」
臨也はどうやら、怒られることを怖がっていたみたいだ。見た目は小学生とはいえ、中身はまだまだ幼稚園児だもんなぁ、と感じつつ、臨也の身体を抱えて脱衣場まで連れて行ってやる。
「なんだ、臨也は怒られたかったのか?」
「……そうじゃないけど……」
「臨也はちゃんと謝ることができただろう? 悪いことしたって思ったんだろう?」
「……」
「なら、次から失敗しないように努力すればいいんだ」
な? と笑いかけてやれば、安心したのか臨也がようやく表情を和らげた。脱がせたパジャマのズボンとパンツ、それから臨也のシーツを洗濯機に放り込んだ。
「あと布団はコインランドリーに持って行くからな」
「はぁい……」
「いいか臨也、洗濯物干すの手伝うこと、もう夜更かししないこと」
「……うう」
臨也にいくつか約束ごとを取り付ける。臨也が何かやらかす度に、こうして約束ごとが増えていくのが、実は俺は少し楽しいのだ。
「それから、」
「それから?」
「夜、怖くなったらすぐ俺を起こすこと。いいな?」
「……うん……!」
ぱぁ、と臨也の表情が明るくなるのが見えると、それだけでもう、駄目だ。
とっくの昔に……こいつを引き取って育て始めた頃から承知していたことだけれど、やっぱり俺は、臨也にはとことん甘いらしい。