※帝臨
※R18
視界がゆっくりと晴れていく。鈍い思考は少しずつ稼働し始め、同時に臨也は胎内で燻ぶる熱の存在を知った。ゆるく振動する異物は酷くもどかしい。
「う……、みか、ど、くん……、なに、これっ……!」
「臨也さんが素直じゃないので、素直になれるようにお手伝いです」
玩具と、お薬を使わせてもらいました。
にこり、と柔和な笑みを浮かべる帝人の存在に、臨也は戦慄する。がちゃり、と手首を拘束する手錠が音を立てた。鈍い光を放つその鉄鎖は、どことなく少年に似ている。どこも暗い所などないのに、この少年が醸し出す、じわりと浸食するような闇は何だ。それを臨也は必死で考えようとするが、思考はまとまるところを知らない。どれもこれも、焼き尽くすように疼く後孔のせいだ、臨也は飛びそうになる意識をつなぎとめようとぎり、と唇を噛みしめた。
「ああ、駄目ですよ臨也さん。せっかくの綺麗な唇に傷なんてつけたら」
「くっ……、う、……、だま、れ……誰のせいだと……」
「僕のせいですよね、嬉しいです」
――だめだ、この少年には何を言っても通用しない。
普通だと、そうこの少年を形容していたのは一体どこの誰だったか。少なくとも、この少年が孕む狂気を、臨也は知らない。知らないままでいたかったのに。
「ほら、何か言うことはありませんか?」
少年の瞳の奥深くが、ゆらり、ゆらめく。押し潰されそうな重圧に、燻ぶる熱に、臨也は必死で耐えながら、
「……それで、も……俺は、帝人くんの、ことが、 、」
それは臨也にとって精一杯の抵抗と言っても過言ではなかった。
「……臨也さん、僕が欲しいのはそんな言葉じゃないんです」
「ひっ……!! あ、やだ、動かす、な……っ!!」
はぁ、と至極残念そうに帝人はため息を吐き、手元のリモコンをかちかちと数回操作する。途端、激しくなる振動に臨也は漏れる声を抑えることが出来なかった。
「ねえ、臨也さん。言ってくださいよ」
「あっ、ああああっ、や、……ひっ……!!」
「臨也さん」
少年の願いは歪んでいる。
「他の人と同じじゃ、嫌なんです」
「ふ、う……あ、やめ、っ……!」
「ねえ、臨也さん、これでも僕のこと、すきだと言えますか?」
「あっ……あ、」
「おねがい、臨也さん」
少年の願いは、酷く歪んでいる。そして、その願いは、
「はっ、あ……みか、どくん……っ」
「いざやさん、」
「 、だよ」
「……、そう、ですか」
――皆を等しく愛しているというその唇で、僕のことを嫌いだと、殺してやると罵って。
――あの人と、同じように。
どんなに強く願ったとしても、帝人の懇願は臨也には届かない。いや、届いてはいる。だが、臨也の精神力とプライドが、それに応えなかった。
真っ暗な、闇。
壊れかけの少年は、ゆっくりと、鈍く光る笑みを浮かべた。