※臨也さん一人上手の話






 くん、と鼻を鳴らすとタバコと汗と洗剤の混じったような匂いが鼻腔を擽った。何てことはない、ただの生活臭だ。なのに、こんなにも欲を煽る。
 今俺が握り締めているのは、俺の物と言うには少しばかりサイズの大きすぎる白いワイシャツ。そう、言わずもがなシズちゃんのものだ。社員旅行だかなんだか知らないが、そんなものシズちゃんに参加させるくらいなら借金分に充てればいいだろうに。そんな悪態を吐く前に、シズちゃんは北海道に旅立ってしまった。そのまま帰ってくるな、ばか。
 とは言っても、俺も一応は健全な成人男子な訳で。元々は性欲も薄い方で割りと淡白な方だったのだが、どうやらあの性欲の塊のようなバカシズちゃんに付き合っている内に俺の身体は作り替えられてしまったらしい。そうでなければ、1週間かそこらシズちゃんとセックスしないだけでこんなにも身体が疼いて、シズちゃんの匂いだけでこんなに煽られるはずがないのだ。

「ん……、」

 シズちゃん家の洗濯物から失敬してきた真っ白なシャツは僅かにシズちゃん家の洗剤の匂いがして、それ以上に染み付いたように香るタバコと汗の匂いが俺を煽る。気がつけば、ベッドに横になり身体を丸め、シャツに顔を埋めたまま右手はハーフパンツの中に伸びていた。

(うわ、勃ってる……)

 自分でも信じがたかったが、どうやら俺は、シズちゃんの匂いだけで勃起してしまったようだった。ちっ、と苦く舌打ちをする。熱を持った陰茎をぎゅう、と握り締めるとそれだけで興奮した。括れの部分を指先で緩く擦りあげ、尿道に軽く爪を立てればくぷ、と先走りの液が漏れ始める。

『人の匂いだけで勃起とは、ホント手前ってやつは、変態だよなぁ?』

 くつくつといやらしく笑うシズちゃんの声が聞こえてくるようで、それを想像するだけで羞恥に頬がかぁっと熱くなる。認めたくはないが、俺はシズちゃんの声が好きだし、あの声で変態と罵られるとぞくりと背筋に快感が走るのも事実だった。昔はそんな変な性癖なんて持ってなかった。シズちゃんとこんな関係になってからだ。身体中のあちこちに触れられるだけで、耳元で囁かれるだけで敏感に感じ入ってしまうのも、全部、シズちゃんが悪い。シズちゃんのせいなのだ。

「、はっ、ぁ……」
『手前、ここ触られんの好きだもんな』
「ん、ンぅ……っ」

 くちくちと濡れる陰茎を擦りあげながら、空いている左手をパーカーに滑り込ませ、胸の突起をきゅうと摘まむ。指の腹で押し潰すようにしたり捏ね回したりしては、びくびくと反応する己の浅ましさに目をぎゅうと強く瞑った。はあはあと息が荒くなる。しかし呼吸の為に息を吸い込めば、そこからはシズちゃんの匂いが肺いっぱいに入り込んできて、自慰の手は余計に加速する。散々シズちゃんに好き勝手にされてしまった俺の身体は、もう後ろの孔を弄らずには満足しないようにまで調教されきっていた。ヒクヒクと後孔はひくつき、疼いている。

「ふ、ぁ……っ!」

 先走りで散々濡れた指先で後孔の縁をなぞるようにすると、そこが期待しているのがまざまざとわかってしまい更に恥ずかしくなった。こくりと口内に溜まった唾液を飲み込み、一度体勢を変える。どうせ誰も見ていないのだから、と、四つん這いになって腰を高く上げた。枕にシズちゃんのシャツを起き、そこに顔を寄せる。左手で乳首を、右手で後孔をまさぐるような体勢は、酷く浅ましかった。そそり勃つ自身の先端をシーツに擦り付け、ぐちゅぐちゅと指を出し入れして、快楽を追うために腰を揺らす。鼻腔を擽るシズちゃんの匂いに煽られて、ただただ快楽を追うことに必死だった。

「は、ぁ、も、……ばかぁ、シズちゃん……っ!」

 なんでこんなときにいないんだよ。普段は俺が嫌がってもあんなに好き勝手するくせに、好きにして欲しい時にはいないなんて。ひどい、こんなのってない。気付けば視界は潤んでいて、落ちる水滴は荒い息と共にシズちゃんのシャツに吸い込まれていく。ばか、ばかしず。

「しずちゃ、ぁ……、帰ってきて、よ……ばかぁっ……!」
「バカは余計だろうが」
「ふ、ぇ……、えっ?」

 聞きなれた声に、ピタリと手の動きが止まる。嘘、そんな、やだ。

「土産持ってきたっつうのに返事もねぇしよ……寝室まできたらこれだもんなぁ?」
「しず、ちゃ……うそ、なんで」
「あ? さすがに手前を放置しすぎても可哀想かなって思って、空港からその足でここまで来たんだけどよ……」

 そのシャツ、俺のだよな? なに勝手に人のモノ盗んでやがる。
 ニヤニヤと音が聞こえるんじゃないかと思うくらいに楽しそうに、シズちゃんは笑っている。恥ずかしくて、消えてしまいたい。

「普段はイヤイヤ言うくせにこれかよ……」
「ふ、やぁっ……!」
「へんたい」
「っぁアアアっ!!!」

 後孔に突っ込んでいた指を引き抜かれる。そしてそのまま、熱くて硬いシズちゃんの自身が散々弄った後孔に押し入ってきて、その瞬間に俺は自身から白濁を撒き散らして達した。が、そんなこちらのことなど構いもせずに乱暴に律動を繰り返されて、頭が真っ白になる。

「や、あ、は、……っ、ひっああ、ん、アアアっ!」
「手前がそんなに変態だったとはなぁ? まだまだ足りないんだろ?」
「や、も、むりぃ、……あっ、あーっ、あっ、ア!」

 淫乱、と耳元で囁かれ、くちゅりと耳朶を舐められ軽く噛まれ、ガクガクと痙攣する身体を抑えられない。ふわりと生のシズちゃんの匂いがして、それだけでまた達しそうだった。







 ぐったりと疲弊する身体をベッドに投げ出し、隣に腰かけるシズちゃんを恨みがましく見つめる。一服しているシズちゃんは、その、こう言うのも恥ずかしいし癪なのだが、正直に言って、カッコイイ。

「シズちゃんのばか……」
「ああ?」

 小さく漏らした愚痴は、地獄耳のこの男に届いてしまったようで。短くなったタバコを灰皿に押し付け、シズちゃんは俺の顔をじっと覗き込んだ。

「人のシャツでオナニーしてたやつに言われたくねぇよ」
「っ……! 、それは、!」

 俺をこんな風に作り替えたシズちゃんが悪い、と元凶である男に悪態を漏らせば、本人は至って楽しそうに笑った。




sexy perfume




*――*――*――*
2011年3月8日は10年に一度の臨也の日らしいですよ!
語呂合わせ的には匂い臨也の日なので抗えない魅力のシズちゃんの匂いにムラムラする臨也さんの話でした。

2011.3.8


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