※静←臨前提の幽→臨






 この人は本当に猫のような人だと思う。

「いいじゃない、幽くん、君、猫好きだろ?」
「俺が好きなのは独尊丸です、あなたじゃない」
「俺は好きだけどね。そっかぁ、それにしても残念だなぁ、喜ぶかと思ってせっかく猫耳付けて待ってたのに」

 ふふ、と彼の口元が緩く弧を描き、その手は頭上の黒い猫耳のカチューシャに伸ばされた。成人男性、しかも自分より年上の人間がやって似合うはずのないその格好だが、何故だか彼には酷く似合っている。

「さて、幽くん、ここからが本題だ」

 にやにやといやらしい笑みを貼りつけ、彼はゆっくりとこちらに歩み寄る。深夜、彼の事務所兼自宅のそのマンションの一室に呼び出されていた。合い鍵は、捨てるも人にあげるも自由だと言って以前から渡されている。……渡されたそれを俺が手放すことなど無いと知っていて、だ。

「問題です、なぜ俺は、こんな夜中に君を呼び出したりしたのでしょうか。ヒントは、俺は情報屋だってことです」
「……」
「ああ、まあ、情報屋じゃなかったとしても誰でも知ってるかもねえ、こんなの、羽島幽平で検索すれば一発だ」
「……」
「まあ、俺は君のお兄さんがこの時期にはそわそわ煩いから知ってるんだけど」

 ところでさっきから携帯光ってるよ、着信入ってるんじゃないの、君の大切なお兄さんからさあ。
 この人がいちいち回りくどい言い方をするのは今に始まったことではない。彼の言うとおり、兄貴から着信があるだろうことは気付いていた。なぜなら、毎年決まってきちんと電話をしてくるからだ。しかしここでその電話を取ることは正解ではない。というより、それよりも優先すべきことが出来てしまったのだ。

「答え合わせは必要かな?」
「……いいえ」
「話が早くて助かるよ」

 するり、気がつけば彼は俺の懐まで来ていた。今日は猫の日だねえ、なんて、先ほどまで彼の頭に乗せられていた猫耳のカチューシャが、俺の頭に装着される。

「お誕生日おめでとう、幽くん」

 今日は君の言うことはなんでも聞いてあげよう、と彼は俺に口づける。ぷち、ぷちと人の服のボタンをひとつひとつ丁寧に外しながら、目の前の黒猫は妖艶に笑った。

 それならば、と。
 口に出そうとした言葉を脳内で反芻してから、再び飲み込んだ。これを言ってしまえば、きっとこの甘やかで底のない麻薬のような、中毒性の高いこの関係は崩れてしまうと悟ったからだ。

「……じゃあ、まずは一緒にシャワーでも浴びましょうか」
「ここでしないの? ふふ、まあいいよ、行こうか」

 ぺろりと唇を舌で舐め、臨也さんは酷く楽しそうにしている。
 酷く残酷なその猫は、きっと自らの残酷さには一生気付かない。




like a cat.



(兄貴ではなく、俺だけを見てなんて、そんなこと言えるはずもなく)



*――*――*
2月22日が幽様のお誕生日だと聞いて
幽様ハピバ!の割に幸せじゃなくてごめんなさい

2011.2.22


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