※静臨
※付き合ってる二人、別人注意









「俺、凄くいいこと考えた」

 俺の横に座っていた臨也が、それはそれは眩しい位に良い笑顔を浮かべたままそう言った。コイツがこんな表情をしている時はろくなことがない。

「シズちゃん、明日デートしよう」
「……はぁ?」

 シズちゃん明日は仕事お休みだったよね、とゆっくりとこちら側に身体を倒し俺の服をギュッと掴んだ。臨也の部屋のソファは俺の部屋にある安っぽいそれとは比べ物にならないほどしっかりしていて、だだっ広いこの部屋できちんと存在感を放っている。
 俺と臨也は一応世間一般的に言えば恋人というものだったが、男同士であること以上に「犬猿の仲」であるという周囲からの認識が俺たちの邪魔をしていた。デートどころか、人前で一緒に歩くことすらままならない。だから必然的に二人で会うときはどちらかの家と決まっていたし、俺もこいつもそれに文句はないはずだった。

「流石に家デートも飽きちゃったんだよ。一回くらいいいだろ?」
「……でも一緒に外なんて歩いたら」
「そう。それで俺は良い方法を思いついたんだ。だからデートしよう」

 その良い方法とやらは、今は秘密、らしい。俺に任せて! と満足そうに笑う臨也の体温を右側に感じて、俺はその細い身体を引き寄せた。








 翌日。
 デートでバーテン服は目立つから別の服で来てよ、と念押しされた俺は、仕方なく幽から無難そうな私服を一式借りた。似合ってる、と抑揚のない声で言われたが、それが幽なりの褒め言葉だと知っているので素直に礼を告げ、待ち合わせ場所に急ぐ。
 だが待ち合わせがよりにもよって池袋駅の東口だとは、臨也の意図がまったく読めない。池袋なんて、最も俺たちが一緒に歩くことのできない場所じゃねえか。それでも一応待ち合わせの5分前にはそこに到着して、俺は臨也を待った。




「シーズちゃん、お待たせ」
「おう、イザ……」

 服の裾を軽く引っ張られて声の方に視線を動かす。時間は待ち合わせから5分程経っていて、まぁそんなものだろうと思いつつ臨也を見ると、そこにいたのは。

「どう、シズちゃん」
「……手前、それ」
「これなら一緒に歩いたって問題ないだろ?」

 肩の少し下くらいまでの長さの黒髪の臨也が、女装してそこに立っていた。
 俺は女性物の服とかに詳しくないから何と言って説明すれば良いのかよくわからないが、普通23歳の男が女装してこんな風になるだろうか。これじゃあ完璧に女じゃねぇか。

「手前、その格好でここまで来たのか」
「山手線乗ってきたよ!」

 楽しそうに俺にピースサインを向ける臨也に溜め息を吐く。俺、変じゃないよね? と臨也がふわりとしたスカートの裾を摘まんで持ち上げようとするものだから細くて白い太股がスカートと靴下の隙間から覗いて、慌ててそれを制する。そういうことするんじゃねぇ、とボソボソ告げれば、何で? と意地悪そうに聞いてきやがる。クソ、こいつわかっててやってやがる。

「……っ、何でもねぇよ」
「そう? まぁいいや、行こうシズちゃん」
「、行くって、どこに」
「デートだよ」

 映画見に行こうよ、と俺の服の袖口を引っ張り東口を出る臨也。ていうか映画って。せっかくのデートならもっと遠出したっていいだろうに。ここから映画館って、近いにも程がある。
 俺を引っ張る臨也の手を振り払う。と、不安そうに臨也の瞳が揺れた。「……ごめんシズちゃん、俺、調子に乗ってたかな」
「バカ、違う」
「?」

 若干しょんぼりしている臨也の手のひらをぎゅっと握る。指を絡める、所謂恋人繋ぎってやつだ。臨也の表情が明るくなる。……可愛い、と思ったのは内緒である。





本日、デート日和





「シズちゃん、なんか手ぇ湿ってる」
「うるせぇ、文句あるなら離せ」
「……やだ」
「ていうかなんで映画なんだよ」
「だって今日はカップルデーなんだもん」






2010.3.17
75000hit企画
静臨/臨也のノリノリ女装


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