※スキ.マスイ.ッチの同タイトル曲にうおおおおおおおとなったので書きました
※原曲のイメージを壊したくない方は読まない方がいいかもしれません








 部屋の灯を消した。薄暗い部屋の中で、ぼんやりとテレビが光る。
 俺にとっての奴の存在は何かと言われれば、大嫌いな化物と形容するのが手っ取り早い。計り知れない力と、予測できない思考パターン。思い通りになんかなってくれなくて、言うことも何一つ聞いてくれなくて、ただこちらの脳を掻き乱していく、気にくわない存在。
 そんな奴と、どうして俺は、セックスしたり、キスをしたり、しているんだろう。そんなこと俺にもわからない。予測できない相手なのだから、そんな妙な関係になってもおかしくはないのかもしれない。そう、断じて俺のせいじゃない。すべては、強引で自分勝手なあいつが、悪い。
 俺は常々、考える。あいつが死んだらどれほど気分がいいことだろう。こんな馴れ合うような、互いの傷口を舐め合うような関係を続けることに意味など見出だせなかった。ただの気分転換。性欲処理。生産性も何もない、無駄な行為。高校を卒業してからだらだらと続けているこの行為に、飽き飽きしているのも事実だ。
 ああ、こんなことなら出会わなければ良かったかもしれない。無駄に広い自室の、カーペットの上に横たわりながら高い天井を見つめた。こんな所を優秀な秘書様に見られたら、ああ、頭が狂ったんじゃないの、なんて言われてしまうかもなぁとか思うけれど、そんな彼女は長期休暇中だ。
 毛足の長い肌触りの良いカーペットも、大人二人がゆっくり腰かけることができる革張りのソファも、一人で眠るには広すぎるサイズのベッドも、程よく反発する枕も、サイドテーブルや本棚、デスク。全てが俺の好みで取り揃えたものだ。あいつの好みなんて知らない、知らなくて良かった。

 例えば、と考える。あいつが死んでしまったらどうなるんだろう。そりゃあ、俺にとってみれば万々歳だ。両手をあげて、喜んでやる。まあ、その棺に花束くらいは手向けてやってもいいかもね。そんなことを思いながら、天井を見つめる。何もない部屋だ。全てが俺の好みで取り揃えた、俺の部屋。あいつの匂いも、思い出も、何一つ侵入させてたまるものか。二人で飲んだコーヒーとか、一緒に見た映画だとか、そんなもの、必要ないのに。
 どうして、そんな些細なことも、俺は忘れてくれないんだろう。
 俺と、あいつは、きっと出会うべきじゃなかったんだ。絶対に、何があっても互いを向くことのないベクトル。生まれ変わって、別人になれたならもしかしたら、あり得たかもしれないね。けれどどんなに頑張っても、俺とあいつは、シズちゃんは、いつまでたっても互いを思うことなんてない。俺が俺で、シズちゃんがシズちゃんで有る限り、一生。世界が終わるその日なら、あるいはあり得たかもしれないそのベクトル。
 つけっぱなしのテレビが、雑音のようにニュースを垂れ流す。ああ、人の命なんて儚い、儚いね。もしかしたら、俺も、シズちゃんも、ころっと死んじゃうかもね。
 そう思いながら、隣に寝転がる金髪を見る。男は目を瞑って、カーペットの肌触りを確かめているようにも見えた。

「あのよ、臨也」
「……なに」
「そういえば、俺」

 二人してベッドでもソファでもなくカーペットの上に転がっているなんて、馬鹿みたいだと。そんな風に感じながら、けれどその馬鹿らしさに居心地の良さも感じてしまったりして。

「お前のこと、好きだ」

 ありきたりすぎる、なんて鼻で笑い飛ばすこともできない。出会う前には名前すらなかったこの感情が、確かな想いを込めて、ここまで届くなんて、誰も想像なんてしてなかった。

「シズちゃんにはさ、たくさん、君を愛してくれる人がいるでしょ」
「ああ、だからどうした」

 ねぇ、以前だったら俺の言葉にすぐにキレてしまっていたよね。それを抑えられるようになったその理由を、俺は自惚れてもいいのかな。

「手前には、俺しかいねぇんだよ」

 自分勝手なのもいい加減にして、なんて言えるはずもなかった。ああ、きっと今日は世界が終わる日だ。さいごのひだ。



 世界が終わる、さいごのひ。俺は、こんなにも、君のことしか考えられない。







さいごのひ
(明日は、昨日よりも今日よりも、君を強く想うよ)
(どうして俺には、君しかいないんだろうね)
(ただひとり、君だけしか。)






2011.01.24


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