※ギャグです





 深夜。静雄が目を覚ますと、そこには床に蹲る人物の姿があった。真っ赤な帽子、服、その全てから、彼は目の前の人物がサンタクロースであると確信した。どうやら静雄の思惑通り、サンタクロースは紅茶を口にしてくれたらしい。少しばかり強引すぎる手段に静雄の胸はつきりと痛むが、こればかりは仕方がないと割りきるしかないだろう。静雄は協力してくれた新羅に心から感謝した。そして、目の前のサンタクロースの顔を見て、そこでようやく気付く。
 そこに蹲るサンタクロースは、静雄の天敵である折原臨也に瓜二つだったのだ。瓜二つなんてレベルではない。目の前の男は喋らないためわかりづらいが、本人と言っても間違いなさそうだった。事実、そこに蹲るのは折原臨也その人であるのだが。
 なぜ臨也がここにいるのか。どうしてこんな恰好をしているのか。混乱気味に脳を回転させる静雄だったが、彼は実に思い込みの激しい男だった。

「……まさか手前、サンタクロースだったのか……!」
「、……んっ……」

 サンタクロースのために準備していたケーキや紅茶に口をつけているということは、目の前の男はサンタクロースに違いない。静雄が驚愕の声を上げると、臨也は小さく喉を鳴らした。そこで静雄は、蹲る臨也の肩が震え、息が荒くなっている事実に気付く。大丈夫か、と臨也の肩を掴み前後に揺すると、上擦った臨也の声が上がった。

「さわ、るな……!」
「あ……? 何でだよ」
「頼むから、そっとしてて……ひゃっ……!」

 静雄が臨也の身体を触る度に、臨也は声を上げる。もしかしたら何かの病気かもしれないと考えた静雄は、サンタクロースである臨也を抱き上げると自らのベッドに横たえた。そして改めて臨也の顔を覗き込む。赤く上気した頬、潤む瞳、しっとりと汗ばむ額と、濡れて貼り付く黒髪、半開きの口から覗く小さな舌……静雄は、自らの局部に熱が集まるのを感じた。
 そもそも、臨也はサンタクロースなのだ。サンタクロースは、子供が欲しがるものを的確にプレゼントする神のような存在である。実はひっそりと人知れず臨也に対する淡い恋心を抱いていた(しかしそれを決して認めようとはしていなかった)静雄だったが、今こうしてサンタクロースである臨也が目の前にいるということで確信したのだ。自分の臨也に対する感情は、確かに恋心なのだと。そしてサンタクロースに会いたい気持ちと、本人も気付かなかったような臨也への恋心を悟ったサンタクロースのボスが、新人サンタクロースである臨也を自分の家に派遣してくれたのだと。それならば、こうしてサンタクロースな臨也が乱れた状態で自分の部屋に蹲っていたのも納得できる。
 静雄はたいへん思い込みが激しく、また自分の間違いに気付きにくい男だった。実際は新羅が仕込んだ薬は彼お手製の媚薬であったこと、臨也はただ嫌がらせのつもりで手編みのマフラーを持参し、サンタクロースの格好をして静雄の部屋に侵入したこと、「サンタさんへ」という置き手紙に爆笑した臨也がわざとケーキと紅茶を口にしたことにも気付かない。
 据え膳喰わぬは男の恥。せっかく自らの恋心を自覚し、その相手がこんな状態で乱れているのだ。童貞である静雄が我慢などできるはずがなかった。
 静雄は、薄く開く柔らかそうなその唇に口付けた。恐る恐る臨也の口内に自らの舌を差し入れる。熱い。歯肉や口蓋をれろりと舌でなぞれば、それさえも感じるのか臨也は弱々しくシーツを握り締めた。我慢するようなその仕草に、静雄は更に興奮する。

「なぁ、臨也」
「、なに……?」
「好きだ」
「ふぇ……?」
「……手前、可愛すぎるだろ」

 いまいちよくわかっていなさそうな(実際、媚薬と静雄からのキスでまともな思考などできていないのだが)臨也の、舌っ足らずな口調は静雄のツボにはまってしまったらしい。再び、臨也に優しく口付ける。臨也が、感じ入った様子で眉を下げた。





 臨也も、自覚していないだけで静雄への恋心を抱いていたのだった。手編みのマフラーに心を砕いていた理由もそれだ。こういうものは得てして本人同士は気付かないものらしい。
 隣の部屋から聞こえてくるギシギシとベッドが軋む音と、抑えきれないとでもいうような嬌声に、幽は兄の成長を感じ取った。良かった、兄もようやく恋人と結ばれたらしい。幽は、兄の友人である岸谷新羅へ「成功しましたよ」とメールを送り、自室のベッドに腰掛けた。

「いやぁ困ったなぁ……これじゃあ部屋に入れないね」
「こんばんは。なら俺から兄貴には渡しておきましょうか」
「そうかい! ありがたい! ……彼が今欲しがってるものは……これだろうね」

 幽の目の前には、赤服の男性が立っている。軽く会釈し、男性の差し出したプレゼントを一瞥する。コンドームやローション、果ては大人の玩具と呼ばれる類いの代物まで入っている。

「……そうですね。流石です」
「そして君にはこれを」
「……ありがとうございます、毎年お疲れ様ですサンタさん」
「ああ、君は結局毎年私と話をしていくね。お兄さんにもよろしく頼むよ」

 それじゃあ他の子ども達が待っているのでな! とサンタクロースは幽の部屋から去っていった。あっという間すぎて、幽は今年も兄にサンタの来訪を教えてあげられなかったなぁ、と少し寂しい気持ちになる。

「……メリークリスマス」

 ギシギシアンアンとうるさい兄の部屋の前にサンタクロースからのプレゼントを置き、自室に戻る。幽は、サンタから自分へのプレゼント――耳栓を取り出すと、さっそく耳にはめ、眠りにつくのだった。







恋人はサンタクロース




2011.1.3
大遅刻クリスマスでした
すみませんでした(土下座)
エロは自粛しました


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