きらびやかなイルミネーション、流れるBGM、ショーウィンドウのディスプレイ、行き交う人々……町中の全てが、クリスマス一色な12月25日。平和島静雄は焦っていた。別に彼女がいないから、という訳ではない。彼は特にそういった色恋沙汰に興味はなかったし、むしろ引く手あまたの所を振り切ってこれまでの17年間を過ごしてきたからだ。
 問題は、その年齢であった。静雄は現在17歳。早生まれの彼にとって高校3年の冬である。受験だとかそういうことはこの際気にしないでおこう。彼には受験よりももっと深刻な問題を抱えていたのだ。

(高校生も今年まで……子供扱いが、終わっちまう……)

 静雄の懸念はそこだった。彼にとって、このクリスマスというのはとても重要なイベントなのだ。特に子供扱いが最後となるこの高校3年生のクリスマスは。そう、彼の敬愛する、サンタクロースと会う最後のチャンスなのだ。
 静雄はたいそう純粋な男だった。そして思い込みの激しい男だった。自分がそうだと思えばそれが正しい。そんな静雄にとって、サンタクロースとは父親や母親の扮装した姿ではなく、アイルランドだかフィンランドだかにあるサンタ村出身の恰幅の良いおじいさんなのである。毎年毎年、良い子にしていた子供たちの元へ夢と希望と愛を届ける存在。クリスマスの朝、枕元にあるクリスマスプレゼントを目にする度に静雄はサンタクロースの存在に感動し、興奮した。そんな静雄は、高校最後のこの冬がサンタクロースに出会える最後の機会なのだと知っていた。サンタクロースは子供の所にしかきてくれない。ならば、静雄が彼に会えるのは今年までだ。
 静雄は、とにかくサンタクロースに会いたかった。夢と希望と愛を届ける存在に、直接感謝したかったのだ。しかしその静雄の願いは毎年叶わずにいた。それまでどんなに起きてサンタクロースを待っていたとしても、いきなり、酷い眠気に襲われ、気が付けば枕元にはプレゼントがおいてあるのだ。時間にして約10分ほどの出来事。静雄は、きっとサンタの魔法にかけられてしまったのだと考えた。
 人間である静雄は魔法に太刀打ちなどできない。眠ってしまうのは逃れられないのだ。ならば、その10分間、なんとかしてサンタクロースをその場に留めておけないか。そう考えた静雄は、友人である岸谷新羅に相談した。「大切な人を部屋に引き留めたい。無理矢理な方法でも構わないから、とにかくだ。頼む」それを聞いた新羅はたいそう驚いた。と同時に感激した。あの静雄が、まさかクリスマスに大切な人と過ごしたい、なんて言い出すとは驚天動地。ここはなんとしてでも協力してあげなければ、と。良くも悪くも、新羅は友人思いの良い奴だった。ただ、彼もまた静雄と同様に思い込みの激しい人間だったのだ。
 そうして先ほど新羅から預かった、可愛らしい小瓶を軽く揺すってみる。ちゃぷ、と瓶の中身が揺れた。新羅曰く、これは相手の動きを封じ込める薬らしい。作戦はこうだ。サンタクロースのために、薬を仕込んだ紅茶とケーキを準備しておく。部屋の中央にそれを並べ、手紙を添える。【ありがとうございました、お疲れ様です、差し入れですので食べてください】心優しいサンタクロースは、きっとこの手紙に気づけば口をつけてくれるに違いない。騙すようで少し心苦しいが、致し方ない。何故なら静雄は、サンタクロースに直接会ってみたかったのだ。その好奇心を止めることなど、誰にもできるはずがなかった。それが例え、サンタクロースであったとしても。






 折原臨也は、同級生の平和島静雄がとにかく嫌いだった。そんな臨也にとって、静雄がサンタクロースを信じているというのは大変面白いネタだった。あの池袋の喧嘩人形が、サンタクロースなどと。その話を初めて聞いたとき、臨也は腹がよじれる程に笑った。そして、高校最後のこのクリスマスこそが絶好のチャンスだと思い至ったのだ。
(サンタクロースの恰好をした俺が現れたら、シズちゃんはどんな反応するのかな)
 死ぬほど憎い相手が敬愛するサンタクロース(偽物ではあるが)だと知ったら、果たしてどうなることやら。
 そうして臨也は、わざわざサンタクロースの衣装を揃え、プレゼントとしてわざわざ手編みのマフラー(その方が嫌がらせとしてレベルが高いと考えたからだ。別に静雄が普段寒そうだったからという訳ではない)を用意し、この12月25日を迎えたのだった。
 手編みのマフラー(臨也は編物も得意であった。妹たちへのプレゼントのマフラー手袋セットを編むついでだったのだ。別に静雄に渡したいから特別に編んでいた訳ではない)を準備するのに必死だった臨也はもちろん、静雄と新羅の会話など、気にかける余裕もなかった。







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2010.12.25
ただのギャグです
一応続きます


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