※静臨
※甘い








 飴玉、ひとつ。



「……なんだこれ」
「え? 飴だけど」
「そういうことじゃねぇよ」


 久しぶりに池袋に出かけてみれば、お約束通りにシズちゃんとご対面。いきなり殴りかかってこようとするシズちゃんと楽しいとは言い難い逃走劇。逃げ込んだ路地裏、猫が一匹。苛々している相手に、ふと思い出してポケットから取り出した飴玉を投げつける。

「わけわかんねぇことしてるんじゃねぇ、なんだ、毒でも入ってんのか?」
「違う違う、さっき帝人くんに会ってね。いくつか貰ったから糖分足りてなさそうなシズちゃんにお裾分け」

 カルシウム配合らしいからイライラには効くと思うよ、と付け加えれば、彼の眉間の皺がさらに深くなる。怒ってる怒ってる。普通の飴でも、こうしてシズちゃんをからかう材料になるのならば楽しい。

「……、うぜぇ」
「疲れた時には甘いものだよ」
「甘いのはこれで充分だろ」
「は……、んんっ……!?」

 いきなり距離を詰められたかと思うと、半ば強引に唇を奪われる。あまりに唐突すぎて、理解が追い付かなかった。呼吸をうまく逃がせない。深い、深い口付けに酸欠になりそうだった。

「っ、ふぁ、……」
「……」
「ん、んぅっ……!」

 一度唇が離され解放された、と安堵の息を吐くも間髪入れずに再び唇が密着する。頭を振り逃げようとするが、シズちゃんの右手が後頭部を、左手が腰をがっしりと掴んでいてそれも叶わない。唾液で滑るシズちゃんの舌が口内を犯していく。ほのかに煙草の味がする。
 口蓋や歯肉を舐められるとぞくりと腰が痺れて、口でセックスをしてるんじゃないかと思う程にがっつりと口内を貪らる。息が辛い。顔が熱くなっているのが感覚でわかる。シズちゃんってこんなにキス上手だったっけ、なんてどうでも良いようなことを考えていると、ようやく唇を開放された。唾液が糸のように伝って、卑猥だと思った。

「、は、ぁ……シズちゃ、」
「ん、黙ってろ」
「ふぁ、あ、……」

 ちゅ、ちゅ、とリップ音を響かせながら、軽いキスが雨のように頭上から降ってくる。唇、頬、目蓋や耳、額、鼻、顎、こめかみ……至るところに唇を落とされ、溺れそうだった。
 シズちゃんが満足したように息を吐いた頃には、俺はすっかり腰砕けでまともに自力で立つこともままならず、シズちゃんに抱きすくめられる形になった。

「……、手前、やっぱり甘ぇ」
「ん、ぅ……なに、が……」
「なんつーかこう……甘い味がする」
「……わけ、わかんない……」
「とりあえず、飴なんか食うよりよっぽど甘いってことだ」

 ていうか堂々と他の男から飴とか貰ってんじゃねぇよ、浮気か? なんてまくし立てられるが、先程までの口付けで脳まで蕩けそうになっていた俺はまともな返答もできない。それでも小さく首を横に振って意思表示をすれば、だよなぁ、とシズちゃんが再び唇を落としてきた。

「も、キス、いいからさ……」
「あ……? 俺がしたいんだよ黙っとけ」
「……シズちゃんの横暴……」
「それでも好きなんだろ?」
「なにそれ……自意識過剰じゃない、の」
「そんな顔して言ったって説得力ねぇよ、ばーか」

 キスの雨が降る。首筋や鎖骨、肩口にまで唇が降りてきて、流石にここでは止めて、と反論しようとしたのだけれど、楽しそうに笑うシズちゃんを見ていると何も言えなくなってしまうのだった。





Rainy Candy Rain






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2010.9.20
IZY48総選挙
第1位
「キスだけでいっぱいいっぱいな臨也さん」


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