※静臨
※裏注意




 本当に、この男はタチが悪い。嫌いだ、本当に嫌いだ。死ねばいいと本気で思っている。池袋の喧嘩人形と呼ばれる化物のは、ただの変態だ。ふざけんな、といつも思う。付き合うこっちのことも少しは考えろ。

「何だよ……余裕じゃねぇか」
「っひぁ……!」

 ぐちゅ、と背後から覆い被さりながら挿入された男のものが、より深く突き刺さる。本当に勘弁して欲しい。余裕なわけないだろ、意識そらさないといっぱいいっぱいなんだよ、ばか。

「ほら、余裕な臨也くん、声出してみろよ」
「ん、な、できるわけっ……っ、っ!」
「だよなぁ……あんまり騒いで人が来たら困るもんな」

 あの折原臨也がこんな所でこんな風にしてるなんて、と耳元に寄せた口から囁くような声が漏れ、その嘲笑うような響きに羞恥心を煽られる。

「おい、今締まったぞ」
「うる、さ……っ」
「こんな場所で犯されて喘いでるくせに良く言うぜ」

 そう、こんな場所だ。池袋の公衆トイレの個室。洋式のそのタンク部分にすがりつくような体勢のまま、便座を跨いでその背後からシズちゃんに挿入されている。ふざけるな、本当に。少しでも声を出さないようにと歯を食い縛り、心中でシズちゃんへの怨み辛みを唱えていると、黙り込んだのがそんなに面白くなかったのか、胸の突起をきゅっと摘ままれた。

「っ……! 、う、あっ……!」
「声出さないとつまんねぇだろうが。もっとアンアン喘げ」
「な、にそれ……AVの、見すぎじゃないの……っや、あっ……!」
「そうそう、そんな声だよ」

 ニヤニヤと、楽しそうにシズちゃんが笑うのが顔を見なくてもわかる。死ね、本当に死ねよ。こうなったら意地でも声を出してやらない。そう思って、片手で口を塞ぐ。

「……上等だ、ぜってぇ声出すなよ」
「ふっ、う……っ、」
「手前がイクまで声我慢できたら……そうだな、一ヶ月間手前には手ぇ出さねえ。出来なかったら……わかるな?」
「なにそれっ、ふざけ」
「おいおい早速ギブアップか?」
「っ……!」

 そんな風に言われては、いくら一方的な勝負とはいえこちらはもう口出しができない。くそ、シズちゃんのくせに俺を嵌めるとか腹立たしい。
 とりあえず声を出さないようにシャツの袖口を噛む。が、後ろからの挿入はより深く、律動に耐えるのだけでもキツい。しかも、わざと一番良い所を確実に突き上げてくるのだから本当にこの男が憎たらしい。ギリギリまで引き抜き、突き刺す。また抜いて、刺す。その繰り返しに、狂いそうだった。噛み付いた袖口は唾液でじっとりと濡れてしまっている。

「……つまんねぇなぁ」
「っ、……ふ、っ……っ――!?」
「せっかくだからこっちも、な?」

 何がこっちも、だ。深くまでぎっちりと挿入したまま、律動が止まる。かと思えば、右手で硬く立ち上がった俺自身に触れてきたのだ。尿道口に爪を立てられ、思わず声が上がりそうになるのを必死で耐える。そのまま指の腹で亀頭を擦るように撫でられ、左手で袋を揉むようにされてはたまらない。しかしこのままイけば、声さえ我慢しておけば俺の勝ちだ。そう確信し、ゆるゆると腰を揺らす。もう少し、もう少しでイケる、その時だった。

「っ、……!」
「手前も小賢しい真似してんじゃねぇよ」
「、っ、……」
「そう簡単にイかせると思ったか?」

 自身の根元を痛いくらいに握り困れ、思わず悲鳴を上げるところだった。どうやらシズちゃんに俺の意図がバレてしまったようだ。冷や汗が止まらない。

「ほら、頑張って我慢しろよ?」
「っ、ぅ……!」

 再び激しい律動が開始され、脳内が真っ白になる。前立腺をぐりぐりと刺激され、耳を舐められ、中をぎゅうぎゅうに締め付けてしまう。内腿が痙攣するのがわかる、しかしこのままドライでイけそう……という所で、ピタリとシズちゃんの動きが止まるのだ。それを何度も繰り返される。まともな思考などもう許されていない。早くイきたくて、たまらなかった。

「なぁ臨也くんよぉ、このまま焦らされ続けるのと、イくのと、どっちがいい?」
「っ、ふ、っ……!」
「ああ、俺は優しいからよ、手前がイかせて下さい、ってお願い出来たら、許してやってもいい」

 ちなみに言わなかったらずっとこのままな。
 悪魔のような男の言葉に、目眩がする。とにかくこの責め苦から逃げ出したかった。勝負のことなど、頭からすっかり抜け落ちていたのだ。

「っ、き、たい……!」
「あ? 聞こえねぇよ」
「っあ、や、もう、イきたい、イきたいっ……! あ、あああああ゛っ……!」

 必死に懇願の声を上げたのと同時に、後ろから突き上げられ、前を拘束する指の力が抜ける。高められ、焦らされ続けた身体は呆気なく限界を迎えた。犬のような荒い呼吸のまま、シズちゃんから逃れようと身を捩ると再び律動を開始される。

「あっ、や、ちょ、まって……! お、れっ…イッた…ばっかりぃっ……! ひっ、や、あっ……!」
「っ、俺は、まだなんだ、よっ……!」
「んっ、うあ、あ、あああっ、……!」
「それに、」




 ――勝負は俺の勝ちだからな、これから一ヶ月間、俺の言うことには逆らうなよ。

 悪魔の囁きが聞こえる。死ねばいいのに、本当に、死ねばいいのに。必死に繋ぎ止めていた意識が途切れるのと同時に、悪魔が楽しそうに笑った。






悪魔と奴隷






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2010.9.19
IZY48総選挙
第8位
「トイレで声を我慢する臨也さん」


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