※新セル・静臨前提の新臨
※微裏、ちょっとそういう発言があります







「じゃあ、とりあえず傷診るからコート脱いで」

 臨也がここに来るのは、彼と喧嘩をした時。臨也の傷を診るのは僕の仕事だ。
 セルティと僕の愛の巣であるこのマンションだが、今日セルティは運び屋の仕事で遅くなるらしい。非常に残念だ。残念すぎる。
 確かに気落ちしているが、それとこれとは話が別だ。まずは、僕も仕事をしなければ。臨也はお得意様なのだ。

「また今日も派手にやったんだねぇ。少しは学習したりしないのかい?」
「……あの男にそれが通用すると思う?」
「あは、そうだね」

 傷は見える所だけでなく、腕や脇腹、肩口、太股……至るところに存在している。シャツをたくしあげ、脇腹の辺りを見せてくる臨也にため息を吐いた。あの男、平和島静雄は容赦がないと思う。普通はここまでしない。

「ああもう、面倒だからシャツごと脱いで。どうせ全身傷だらけなんだから」
「ん……あっ、いやそれはさぁ、」
「今更でしょ、臨也。俺は今更何も驚かないよ」

 眼鏡越しに見る臨也の表情が、若干曇る。しかし直ぐに観念したように黒いシャツを脱ぎ捨てた。

「壮絶だねぇ臨也……罵詈讒謗でも唱えたのかい?」
「まさか、あの男は俺が何言っても一緒だよ、それがお経や聖書の一節だったとしても変わらず暴力だ」
「じゃあたまには愛でも囁いてみたら?」
「……うるさいよ新羅、さっさと診てよ」

 自分に都合が悪くなるとこれだから困る。臨也の身体は全身が痣や、傷だらけだった。それも、情事の後が色濃く残るような。

「ねぇ臨也、噛まれるのってやっぱり痛い? それとも気持ち良いのかな」
「……知らない」
「ふぅん……」

 本当にこの男は素直じゃないと思う。こんなに傷を付けられて、痕を残されて。それでも絡み合うことを止めないのだから、やっぱりマゾだ。

「まあいいや、消毒するね。沁みるかもしれないけど我慢してよ」
「ん……っ、……!」
「……」
「……っ、」

 傷口に消毒液の染み込んだ脱脂綿を当ててやると、臨也の口からはくぐもった声。臨也は痛みに敏感だ。傷口の痛みに、どうせ静雄との情事を思い出しているのだろう。
 周りから見たら犬猿ノ仲、不倶戴天な二人だが、実の所は恋人同士なのだということを俺は知っている。その愛の形は、かなり歪んでいるが。

「静雄にはそのままでいて貰いたいなぁ」
「なに、……っひゃ、あっ……!」
「なに変な声出してるの、私は傷を診てるだけなのに。ねぇ、乳首、こんなに赤くなってるけど噛まれた?」
「うるさ、あ、あっ、触る、なっ……!」
「そうはいかないよ、君を診る医者としては、それぞれどんな状況で負った傷なのかきちんと把握しておかなきゃ」

 胸元の突起にピンセットを当てると、その冷たさに臨也の肩がぶるりと震えた。その様も気にせず臨也のカルテを片手で開く。前回の記述と比べると少し肥大しているようだった。

「このままじゃあおっぱい大きくなっちゃうかもね、女の子みたいに」
「っ、う、るさ……あ、やっ、ひっ……!」

 キュッと冷たい金属で乳首を挟むと、臨也の口から上擦った声が上がる。感度は相変わらず。

「ほら、ちゃんと説明して? 静雄からはここ、どんな風に触られた?」
「、……軽く、噛み付かれて、歯を立てられて……思い切り摘ままれて、あと、舌で、舐められた……」
「ふぅん……了解……」

 臨也の言葉を、さらさらとカルテに書きこんでいく。肩口の噛み傷や首筋の鬱血についても同様に、静雄の行為の手順を聞き出した。全てを、事細かに記していく。このカルテは俺が臨也と出会ってからの臨也のことが詳細に書かれている。身長体重はおろか、今までに負った傷について、全部。

「じゃあ、下も脱ごうか臨也」
「っ、……」
「なに? 今更恥ずかしがることもないでしょ。もしかしてまだ中に静雄の精液でも残ってる? それとも、無理矢理突っ込まれて切れた?」
「う、るさい……」
「これも重要なことなんだよ臨也。性病は怖いからねぇ。小さな傷も命取りだ」

 だから早く、と臨也を急かす。自分でも笑ってしまうけれど、俺は「医者」という身分を隠れ蓑に臨也を良いように扱っているのだ。

「……新羅」
「どうした? そうそう、そういえば今日、セルティは帰りが遅くなるみたい。時間のことは気にしなくても、」
「君も、相当歪んでるよ」

 そう吐き捨てて、ベルトに手をかける臨也を、僕はどんな目で見ていたのだろう。
 歪んでいる、なんて、そんなこと。







直情真気






(君への気持ちも、嘘偽りのないそのままの気持ちさ)


(世界で2番目に、君を愛してる)




*――*――*
2010.9.18
IZY48総選挙
第2位
「新羅の治療中にうっかり変な声出しちゃう臨也さん」


BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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