もう仕事なんて放っておこう。ここ数日、なかなかシズちゃんに構ってやれていなかったのだ。たまに仕事を放置したからといって、然程問題になるといった訳でもない。俺はリビングに向かい、耳と尻尾で寂しいと訴えるシズちゃんに声をかけた。







 そもそも、犬、というか猫が裏市場に出回った時の目的というのは性行為目的の「玩具」であった。そのため猫は見目麗しく、快楽に従順である。シズちゃんは犬だけれど、例に漏れず綺麗な顔をしていた。
 快楽に従順……というのはまああながち間違いでもない。時折シズちゃんには、所謂発情期のような時期がくる。その時期の訪れは本当に不規則で、全く掴みようがない。発情期のシズちゃんは、外見は全く変わらないのに突然襲いかかってきたりする。研究所時代に「そういったこと」を仕込まれていたのかもしれないけれど、テクニックとかそういったものが半端ではないのだ。普段は大人しいくせに、俺をねちねちと攻め立てては快楽に引き摺り落とす。しかも絶倫。きっと研究所のやつらはシズちゃんをセックスレスで欲求不満が溜まりまくったオバサンとかに売り飛ばすつもりでいたんだろうな、と思い至ったのはシズちゃんを引き取ってから2週間目くらいの頃だったろうか。


 さて、どうして俺がこんなことを考えていたのか、というと。

「……もう、限界だ」
「えっ、……」

 普段の散歩ルートを歩き回り、公園のベンチで休憩をしていた時のことだった。そろそろ帰ろうかと言い出そうとした俺を遮り、たった一言、そうシズちゃんがもらしたかと思うと、凄い勢いで腕を取られ、すぐ近くの茂みに引っ張り込まれたのだ。
 確かにここ最近構ってやれていない自覚はあったが、まさかここで発情期が来るとは予想外だ。シズちゃんは俺を木に押しやると、そのまま乱暴に唇を重ねてくる。この公園があまり人が来るような場所じゃなくて本当に良かった。キスだけでこんなに息が上がるなんて、これはシズちゃんも相当溜まっているみたいだ。
 そんな風に冷静に考える暇もなく、くるりと身体を反転される。木に手をつき、尻をシズちゃんに突き出すような体勢は正直恥ずかしい。後ろから覆い被されて、カチャカチャとベルトを手際よく外されたと思うといきなり下肢を握り込まれた。

「ふぁっ……! シズちゃ、あっ!」
「期待してんのか? もう硬くなってきてんぞ」
「っ……!!」

 言われてみれば確かにその通りで、俺は十分に興奮していた。普段ではありえない外という条件下でぐちゅぐちゅと自身を擦り上げられて、思わずキツく手のひらを握り締める。

「あっ、やっ……、あっ! あああっ!!」
「ほらご主人サマよぉ、あんま声出すと見つかるかもしんねえぞ?」
「っ……! ……、ぁ、……っ!!」

 普段は臨也、と呼び捨てにする癖に、こういう行為のときだけわざとらしく「ご主人サマ」なんて呼んでくるこの馬鹿犬を罵ってやりたいのだが、口を開けば喘ぎ声しか出てこないような気がして唇をぎゅっと噛み締めた。

 上の服は着たまま、下半身だけ露出させているなんて、変態じゃないか。シズちゃんはと言うとムカつくことにきっちりと服を着こんでいる。首輪でも掴んでやりたかったけれど後ろから覆い被されるこの体勢ではそれも叶わない。
 その時、ふっと背中からシズちゃんの体温が消えた。覆い被さるのを止めたらしい……が、さらに厄介なことに……シズちゃんは俺の尻に顔を寄せていたのだ。

「やっ、やだっ、ちょ、っ……だめっ……!」
「悪い、我慢出来ねえ」
「ひっ、あ、ああああっ、や、舐めない、でっ……!」

 犬の熱い舌が後孔に触れて、どうしようかと思った。ぴちゃぴちゃと羞恥心を煽る音がする。自身を擦られながら後ろを舐められて、気が狂いそうだった。

「やだっ、……や、指、も、だめぇっ……!」
「ふ……、ん……」
「あぅっ……、あ、そこ、やだぁ……っ!」

 舐められている最中に一本の指を挿し入れられ、中を擦られて声が抑えられなかった。シズちゃんはそこを自らの唾液ですっかりどろどろにすると、ようやく顔を離してくれる。指がまた増えて、ぐちゅぐちゃと中をかき混ぜるように動かされる。ああ、そろそろだ。指を引き抜かれ、代わりに熱が押し当てられた。ぐぷ、と音を立てて入り口を押し上げるソレに身体がぶるぶると震える。

「あ、……、シズちゃ、やだ、あ、だめ、ま、待って……っ」

 とにかく否定と制止の言葉を並べていると、そこでぴたりとシズちゃんの動きが止まった。不思議に思いちらりとそちらを見る。

「……、シズちゃ、ん?」
「どうした?」
「え、……、なんでも、なっ……っ!!」

 挿入こそしないものの、シズちゃんの先端で入り口をなぞられるその感触に身震いした。シズちゃんのソレからも先走りが溢れているようで、ぬちゃ、という水音が羞恥を煽る。これならばまだ素直に挿入された方がましだ。なのに、生殺しのような状態が辛い。

「なぁご主人サマ、」
「シズちゃ、ぁ……っ」
「俺はいつまで待てばいい?」

 その言葉に、ハッとする。ああ、確かに俺は「待て」っていったけど! 背後でシズちゃんがにやけているのがわかって、ムカつくやら恥ずかしいやらでどうにかなりそうだ。



「俺は忠犬だからよ、」



 ご主人サマの言うことはしっかり聞かなくちゃいけねぇよなぁ?




 そう言って口角をつり上げるこの駄犬に、俺はやっぱり仕事を優先させるべきだったと今更ながら後悔した。





【シズわん!:忠犬シズちゃん END】






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