※静臨
※裏注意









 例えば、俺の髪に触れる手だとか。唇に当てられた指先だとか。身体中、あちこちに触れてくる、彼の手が。


 とても、嫌いだった。








「ひ、ん……っ、あ、っ!」
「っ……」
「や、そこ……ぁあっあっあああ!」

 俺がイって中を締め付けるのと同時にシズちゃんがくっと息を飲んで俺の中で達するのがわかった。中に吐き出されたその白濁としたものが酷く気持ち悪い。はぁはぁと荒く息を吐いて、ケダモノのようだ。埋め込まれた熱を逃さないように腹に力を入れてぎゅうと締め付ければ、再び中で彼のものが硬くなる感触。ぐりっと中のイイ所を擦られて気持ち良くて涙が出た。シズちゃんの手が、俺の頭を撫でる。そのまま頬に触れてくるその指先が気持ち悪くて吐き気がした。
 シズちゃんとのセックスは好きで好きでたまらないのに、最中に触れてくる彼の手が、ただ只管嫌いだった。

「はっ……あ、馬鹿じゃないの、」
「ぁあ?」
「ッ……化物のっ、くせに……っ」

 慈しむように、壊れ物を扱うかのように、ただ只管に優しく俺に触れてくるその手がとにかく気持ちが悪くて。

「シズちゃんさぁ、化物のくせになにそんなフツーの人間みたいなことしてるわけ?」
「イザヤ、手前……」
「ふざけんな……っ!」

 君は化物だ。人間じゃないんだ。だから俺は君のことが嫌いなんだよ。

「化物は化物らしく、もっと乱暴にしてれば良いんだよ。何の為に俺とヤってるわけ? ああそれとも、童貞捨てられたから勘違いしちゃったの? いいかいシズちゃん、君は化物だ。そんな、力を抑えて抑えて、人間みたいに振る舞うなんて許さない」
「……あぁそうかよ」

 反論するような暇さえ与えずに早口で捲し立てると、静かに、彼は言葉を漏らした。怒っているのがひしひしと伝わってくる。案の定彼は俺の中に入れたままの状態で向かいあっていた俺の身体を四つん這いにさせた。そして俺の腰を掴み、力任せに突いてくる。その衝撃はセックスと言うより只の暴力のようだった。

「ひぃっ……あ、あああっ……やぁっ!」
「何が嫌だよ、この淫乱」
「くぁ、……ふ、ぅう……あ、!!」
「酷くされてさっきより感じてるとか、手前はMか」

 だめだ、気持ち良い。シズちゃんの言うこともあながち嘘じゃないかもね。中を強く抉られて、涙が出るくらい気持ちが良かった。息も出来ないくらいの衝撃が心地よくて仕方がない。髪を引っ張られて、肩に噛みつかれて、胸の突起を痛いくらいに捻られて、俺自身を乱暴に擦りあげられて、涙も涎も止まらなくてぐちゃぐちゃだった。ああこれでこそ化物だよ。化物だからこそ、俺は君を嫌いでいられる。


「はっ、あっ……! しずちゃ、シズちゃんっ、あああああ゛あっ!」
「イザヤ、」
「もっと、……ね、おねが……もっと、酷くしてよ……うあっ!」

 頼むから。これ以上壊れ物を扱うような優しい手で触られたくないんだ。でないと、君を化物に仕立てあげでもしないと君を嫌う理由なんてつくれないのに、君は俺のことなんて嫌いだってわかってるのに、そんな風に、恋人同士のソレのときみたいに優しく触れられたら、俺は。

 がくがくと身体が痙攣しているのがわかる。ああ、また。酷くしろって言ったのに、不意にこうして優しく背を撫でてくるものだから、俺は勘違いしそうになるんだ。
 もう、苦しい。流れた涙が、生理的なものなのかそれとも別の何かなのかは、俺には判別がつかなかった。







うそつきは甘い夢を見るか







2010.2.15


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