"Kissing a smoker is like licking an ashtray."
(喫煙者とキスをするのはまるで灰皿を舐めるようなものだ)







 人の気配の少ない路地裏で、俺はクソ蟲を見つけた。なんとなく通った場所だった。

「ああ本当に、どうして君はいつだって俺を見つけちゃうのかな、俺、別にシズちゃんに会いに池袋に来てる訳じゃないんだけど」

 相変わらず、こいつの口はよく動く。少しは黙っていられないのか。うるせぇ、手前が目立つことしてるからだろ。そう返すと、どこの欧米人だと言わんばかりのボディランゲージで、やれやれと肩を竦める。

「え〜、何か目立つようなことしてた? 俺そんなつもりないよ。むしろシズちゃんに見つからないようにこっそりしてたんだけどな。それでも見つけちゃうんだからシズちゃんは凄いね、犬みたい。ほらワンちゃん、鳴いてごらんよ!」
「手前……っ! しね!」

 こいつの軽口にこんなにも簡単に釣られる俺も大概だが、それでもぶん殴らずにはいられない。思いきり拳を振り上げるが、するりと避けられる。

「シズちゃん怖いよ、そんなんじゃ女の子も近寄らない。あ、近寄らないからそんなパカパカ煙草とか吸ってられるんだよね、知ってた? 煙草の匂いってけっこう嫌われる要素だよ。まぁ君は元々好かれてなんかないだろうけど!」
「黙れ」

 口にくわえていた煙草を地面に落とし、その火を足で踏み潰した。その様子を見ていた臨也は、どうでもよさげに呟く。

「やだシズちゃん、ポイ捨てしてる。いけないんだー。これだから喫煙者ってやだよねぇ。他人のことも考えないでさぁ。主流煙と副流煙ではどっちの方が有害物質が多いと思ってるんだよって話。まぁでもシズちゃんは俺に煙が届かない場所でずっと煙草を吸い続けたらいいよ。そして肺癌とかで死ねばいい」
「手前が死ねよ」

 素早く臨也の腕を引き寄せ、壁に押し付ける。その目は挑発的だ。吐き気がする。

「俺が吐き出す煙は全部手前にくれてやる」

 馬鹿じゃないの、と笑う臨也の唇に噛みついた。向こうから先に舌を出してきて、口の中を丹念に舐めあげられる。口を一度離すと唾液が伝って、また口付けた。今度は俺が舌を出すと、軽く噛まれる。臨也のシャツの裾から手を差し入れると、舌を噛む強さが若干強くなった。

「ケダモノ」
「俺は犬なんだろうが」
「こんな犬は嫌だね……んっ」
「うるせえ」

 胸の突起を軽く引っ掻くと直ぐに声を上げる。そんなにも今日はキスがしたいのか、臨也はまた俺の唇を舐めた。ああもう、本当に苦い、と臨也は顔をしかめる。

「ねぇ知ってたシズちゃん。喫煙者とキスするのって、灰皿を舐めるようなものらしいよ」
「じゃあ手前は灰皿でも舐めとけよ」
「んー、パス」

 俺にはシズちゃんで充分だ。そう笑う臨也の唇に再び噛みついた。手前にとっては苦いんだろうが、俺にとっては甘ったるくて吐きそうだった。







Kissing you,






2010.2.8


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