臨也が俺の家に住むようになって、早くも3ヶ月が過ぎた。 最初の頃こそ大人しく、ちょっとしたことでびくびくとしていた臨也だったが、今ではすっかり俺に懐いていた。

「ねぇどたちん、今日おやすみなんでしょ?」

 野菜サラダにスクランブルエッグ、そしてフレンチトーストとホットミルク。
 朝食の時間、両手でマグカップを握りながら臨也がキラキラと目を輝かせて言う。インテリア関係――主に店の内装などだが――の仕事をしているために休みが不規則になりがちな俺としては、普段臨也を一人にしてしまっているという負い目があった。だからこそ、こうして休みの日には一日中、ずっと臨也に付き合ってやる。まるで父親になった気分だ。臨也の方を見れば、牛乳で髭ができている。見た目こそ12〜13歳程度だが、中身や行動は小学校低学年かそれ以下だ。確かにこれじゃあ父親と変わらないな、と思いつつ臨也の口の周りを拭ってやり、「何がしたいんだ?」と尋ねる。ぱあ、と一気に顔が明るくなった臨也は、少し興奮気味に口を開いた。

「じゃあね、まず公園で一緒に遊ぶ! それからそれから、」
「落ち着いてゆっくり話せばいい。俺の休みは逃げないからな」
「お買い物に行って、ごはんつくる! 今日は俺がどたちんにごはんつくるんだから!」
「ああ、それは楽しみだ」

 じゃあまずはその前に、サラダのトマトも食べてからだな。そう告げれば、臨也の動きがぴたりと止まる。

「……どたちんのいじわる」
「意地悪じゃない、ちゃんと食べないと遊びにも買い物にも連れて行かないからな」
「うう……どたちんのばか……」

 臨也は半分涙目のまま、皿に残っていた真っ赤なトマトにフォークを突き立てた。








「満足したか?」
「ん! じゃああと買い物ね!」
「わかってる」

 近くの公園は平日ということもあって人もあまり多くなく、一緒に砂山を作ったり(トンネルや城まで作らされた)、ブランコを漕いでやったり逆上がりの練習を手伝ったりと実に盛りだくさんだった。そして鬼ごっこのようなかくれんぼのような花いちもんめのようなよくわからない複合的なゲームをさせられ、臨也はすっかり満足したらしい。

「あのねぇ、俺、カレーつくる!」
「そうか、じゃあ何が必要かわかるか?」
「えっと……お肉でしょ、じゃがいもでしょ、玉ねぎに、カレー粉でしょ、あと福神漬け?」
「……人参はどうしたんだ?」
「……人参、きらいだもん」

 スーパーに到着して、臨也がカートを楽しそうに押すのを後ろから眺める。ちゃんと人参も買うんだぞ、と告げれば唇を尖らせた。
 と、お菓子の棚の前で臨也の歩みがぴたりと止まる。

「……臨也?」
「……どたちん、俺、このお菓子欲しいなぁ……」

 臨也がじぃっと見つめているのは、つい最近発売になったチョコレート菓子のようだった。臨也はチョコレートが好きだ。バレンタインに俺が貰ってきた物の3分の2以上は臨也が食べていた程である。ここでお菓子を買ってやるのはいいが、あまり臨也のワガママを通すのも良くないしなぁ、と思っていると、臨也の黒い耳がへたり、尻尾も控え目に揺れていた。

「……どたちんー……」

 上目遣いでこちらを見詰める臨也。その様子を見て俺は――



お菓子を買い物籠に入れた。
心を鬼にしてお菓子を諦めさせた。


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