猫を拾った。年はまだ人間でいうと12〜3歳くらいだろうか。意識はなく、酷く汚れていて、ぐったりとしている。ずぶ濡れのそいつを放っておく訳にもいかず、俺は自分のアパートにそいつを招き入れた。

 猫、といっても普通の猫ではない。人間と動物の遺伝子を掛け合わせて生まれた、見た目はほぼ人間なのに猫耳と尻尾のついた愛玩動物。裏社会で金持ちの間で定着した道楽。当初は性的対象としての玩具のようなものだったそれも、最近ではその意味も薄れて一般的になってきていた。

 そして俺が拾った猫は、ぼろぼろのタグをつけていた。引きちぎろうとして失敗したみたいな傷がついている。とりあえず風呂に入れてやろうと浴槽に湯を溜めていると、目を覚ましたらしいそいつが、こちらを見ていた。

「……どうした」
「ここ、どこ」
「俺の家だ……いや、それじゃわかりづらいか……えっとだな」
「おじさん、ダレ?」
「……お前が、倒れてたから連れて帰った。タグが一応残ってるみたいだから、一晩休んだらそこに帰してやるから」

 だから安心しろ、と言おうとすると、目の前の猫はいきなり俺に爪を立ててきた。

「俺は帰らないっ! おじさんもあの施設の関係者なんだろっ!」
「おい、ちょっ」
「やだ、あそこはいやだ……っ!!」

 暴れる猫を抱き締めてやる。爪を立てるそいつは、ようやく落ち着いたのか少し大人しくなった。

「俺はお前の言う施設が何なのか知らないが……そんなに嫌がるくらいだ、あまりろくな思い出もないんだろ」
「っ……、」
「……行くところはあるのか?」
「え……」
「その様子じゃ、ここから出てもまた行き倒れになるだけだ」

 俺の言葉にかたかたと小さく震える猫を、さらにぎゅっと抱き締めてやる。

「幸いなことに、俺の部屋は一人暮らしにしては広いんだ。猫一人増えた所で問題はない」
「……えっと」
「最近一人暮らしが寂しくなってきた頃だったんだ」

猫の震えが治まる。黒い耳がぴくんと反応して、不覚にも可愛いと思った。

「だからお前が良ければ、ここに住めばいい」
「おじさん、」
「それから」

 そろそろ風呂の湯もちょうどいいくらいになっただろう。浴室に足を運ぶ。猫はまた少し嫌がるそぶりを見せた。ああ、猫は水が嫌いなんだったっけ。

「俺はおじさんじゃなくて、門田だ。お前は?」
「…………いざや」



こうして、俺は猫――臨也と暮らすことになった。








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