先ほどとは打って変わって、機械が忙しく稼働する音が耳殻に満ちる。

「あ、ぁ…っ!」

 内部を容赦なく抉られる衝撃にびくびくと跳ねる肩。無機質な振動音をたてる玩具に、もともと快楽に弱いとされている猫が耐えられるはずもない。林檎のように熟れた頬に、ぼろぼろと大粒の涙が零れていき上着に染み込んでゆく。下半身だけ脱がされた滑稽な格好。与えられた悦楽の熱に戸惑う。脳よりも先に身体が勝手に反応してしまい、苦しいほどの欲求に苛まれる。慣らされずに無理矢理押し込まれたソレにも時が経てば順応した肢体は、おそらく以前にも経験したことがあるのだろうと帝人に推測させた。

「や、う!…ん、止めて、とめてぇ…!」

 不規則な振動に為すすべもなく、傍の壁に凭れてリモコンを弄る帝人にただ訴える。帝人は無表情に手元のスイッチをかちかちといじっては、温度のない目線で臨也を観賞していた。息を飲んで帝人と距離をとろうとベッドの上を後ずさる臨也に、帝人はちち、とわずかな指の動きでスイッチを最大にあげる。

「あ、あ、やぁ…っ」

 いやだいやだと子猫のように首を振るも、両手を縛られたままでは自ら快感から抜け出すことができず、ただ無遠慮な刺激に応えるしかない。かといって一番良いところを微妙に外したそれでは達することもなく、もどかしい電流のような責めに腰が揺れるのを帝人は見ていた。

「…足りないですか?」
「ふ…え?ちょ、だめっ、」
「遠慮しなくていいですよ」

 必死に逃げようとする臨也の動きにあわせて首枷がじゃらじゃらと音をたてる。拘束された手首で帝人の胸を押して反抗するも、

「んぐ、…んっ」

 飼い主からのはじめてのキス、に油断して身体から力が抜ける。その隙に流し込まれた液体は少量口端から零れたが、侵入してきた温い舌によって嚥下せざるをえなかった。

「これできっと、もっと楽しんでもらえますね?」
「あ、あ、」

 被さっていた身体を離して口元を優雅に拭った帝人は、稼働しっぱなしのバイブを更に押し込み抜けないようテープを施した後、ポケットから黒く細長い布を取り出した。決して臨也には直に指一本も触れず、言いしれぬ熱に疼く痩躯を持て余して潤んだ瞳をゆっくりと覆い隠す。震え始めた掌も足先も、ぐちゃぐちゃに塗れた頬も、ひたすら酸素を求める唇をも視線で侵す。

「う、んん…!」

 上着や目隠しが肌に擦れることにすら感じるらしく声を漏らしながら、臨也は耳を立てて帝人の存在を探るように必死で動かしている。
 迷子のような仕草を可愛らしく思った帝人は、そういえば、と風の噂で猫の性感帯が特徴である耳と尻尾にもあったことを思い出す。試しにもうひとつローターを取り出し縮こまっている尻尾にあてがってみると、いきなり増えた刺激に怯えて泣き叫ぶように喘ぐ。帝人は暴れる手足を器用に避けた。薬の効果なのか判別はつき難いが、あえて尻尾に小さな玩具を固定したままにする。
 垂れきった耳に息を吹きかけて跳ねる痴態を楽しんでから、帝人は足音をたてずに壁際へと戻り、たった一人の無言の聴衆になる。ただ始末を機械に任せて。
 臨也は一人遊びの様相を挺したベッドのうえで、暗闇の中帝人の名を呼びながら終わりの見えない楽劇に溺れる。

「ふあ、あっ、あ、…けて、助けてぇ…!」
「臨也さん…」
「ご、めんなさ…っい、ひゃ、あう、ッ」

 絶え絶えに奏でられる謝罪。帝人はそれにはもう応じず、自ら作り出した饗宴を眺める。欲しかったものを手に入れた喜びを溶かした眼は純粋な愛に充ち溢れている。しかし帝人は、まだ足りないとばかりに唇を舐めた。狂気に彩られた声色が拙い喘ぎをかき消す。

「あなたにはもう僕しかいないんですよ、」

 臨也の鋭敏になった聴覚に響くように、帝人は言い聞かせる。

「ね、臨也さん?」
もう逃げたりしませんよね?

 吐息とともに放たれた言葉。
 臨也はまた涙をひとつ零した、けれどそれは布地の表面を少し濡らしただけで、恍惚の笑みを浮かべた帝人には届くことはなかった。








【帝人ルート1:あなたの為の一人遊び END】




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