※シズイザ
※臨也別人注意
シズちゃぁん、と甘ったるい声で俺を呼ぶ臨也は、普段のそれとは違っていて。
「おれね、シズちゃんのこと嫌いなんだぁ」
「……言われなくても知ってる」
「うそだよシズちゃん、ほんとはおれ、シズちゃんのことだいすきだよ!」
「……っ」
いつもの人を喰ったような笑みではなく嫌味のない純粋な笑顔で、それこそぎゅう、と音がするんじゃないかという位に臨也は俺の背中に腕を回した。胸板に顔を埋めて、甘えたい盛りの子供か子猫かを連想させる。
そんな臨也の周りには、ビールの空き缶が何本も転がっていて……信じられないことだが、臨也は完全に酔っ払っていた。
「シズちゃんすきだよー」
「……そうかよ」
「ねぇシズちゃんは? おれのことすきー?」
何故か俺の部屋に勝手に上がり込んで勝手に出来上がっていた臨也を、俺は何故か殴ることが出来なかった。普段だったら確実に殴っているだろうに。
「シズちゃんはね、おれの特別なんだ」
「……イザヤ」
「ふふー、名前、もっと呼んで」
「イザヤ」
どうして俺はコイツの言うがままにしているのかと腹立たしくもあったが、今のコイツは只のガキと変わり無い。悪意のないガキに殴りかかるような真似は、どうしても出来なかった。
「ねぇお願い、俺だけ見てて」
「は」
「嫌いでいいから、俺を特別に思ってよ……」
「イザヤ、」
ぎゅっと背中に回された腕に力が込められたのがわかる。顔を上げた臨也が、こちらを真っ直ぐに見つめていた。先程までの甘えたな子供ではない。愛に飢えた大人の顔だ。臨也はそこらに置いていた飲みかけの缶ビールに口をつけ一気に残りを飲み干した(かかった時間からして、缶の半分程は残っていたのだろう)。真っ赤にした顔のまま、ぐいと俺を床に押し倒す。
「ずるくてごめんね」
今にも泣きそうなソイツは、俺の唇に噛みついた。子供らしくない、苦い味がした。
ずるい大人です
2010.1.31