※シズイザ
※若干エロかもしれない






「世界で一番大嫌い!」

 そう高らかに目の前のクソ蟲は宣言して、俺の投げたゴミ箱を易々と避けやがった。

「いや、違うな。ちょっと間違えた」
「ハァ? 何がだ」

 本当はコイツと会話を成立させることすら煩わしいのだが、そんな俺の考えも無視して、

「世界で唯一、君が嫌い! そっちの方が正しいよね!」

 ヤツの口元が、ゆるく弧を描く。それは心底楽しそうで愉しそうで。ざわり、と自分の中で何かが動いた気がした。これは間違いない、怒りというものだ。そう認識するより速く、俺はコイツに拳を繰り出していた。

「やだシズちゃんったら、怖ぁい!」
「死ね」
「そんな簡単に死なないよ……っ!」

 軽やかに俺の拳を避ける臨也だったが、殴る目的ではなく伸ばされた腕へは少し反応が遅れたみたいで、コートの裾を掴んで引っ張ると「しまった」とでも言いたげに顔を少し歪めた(と言ってもそれはほんの些細な変化で、他のヤツが見たところでそれがコイツの焦りだとは気付かないだろう)。胸ぐらを掴み、そのまま壁際に追い込んだ。
「……捕まっちゃった」
「はっ、ざまぁねぇな」

 コイツに逃げられるのも癪なので、ぐっと胸ぐらを掴んでいた腕を臨也の両腕を拘束する方にシフトさせる。

「俺まだ死にたくないんだけどな」
「それが最期の台詞で文句はねえか」

 臨也の両腕を頭上で纏めて左手で掴み、空いた右手で臨也の首をぐっと抑える。

「ぁっ、なんか、……襲われてる、みたいな恰好、」
「は? まさにその通りじゃねえか」
「そ、じゃ……なくて」

 臨也の白い頬が蒸気し、月明かりに照らされた人気のない路地裏でもわかるくらいに赤くなっている。気道を押し上げられたせいで浮かんだ生理的な涙が眦で光った。普段の余裕綽々なコイツからは考えられない焦りの表情に、ざわりと(先程とはまた別種の)感情が動いた。

「今、から……犯される、みたい、ってこと」
「……は?」

 臨也のその言葉に、首元を押さえ付ける腕の力が少し弛む。先程までに比べればまだ呼吸しやすくなったようで、臨也は少し咳き込んだ。

「まあ、世界で唯一大嫌いな君に犯されるなんて、殺される以上の屈辱だけどね……っ」

 思えばそれが引き金だ。ただ、自分にとって殺したい程に嫌いなコイツが「殺される以上の屈辱」だと言った。それで十分だった。

「……ちょっと、シズちゃん……殺すなら……っんぅ!」

 乱暴に、噛み付くように口内を犯す。舌を入れて、柔らかなソコを蹂躙する。舌を噛まれるかも、なんて思う暇はなかった。ただ、貪るように。呼吸のすべてを奪うように。臨也はと言えば、何が起きているのか理解出来ていないというようだった。が、直ぐに目を伏せ、かつ舌を絡ませてくる。コイツ、馬鹿じゃねえかと思ったが、やっていることは俺も変わらないと気付いて自嘲した。ゾクゾクする。これは怒りではない。

「あ、は……、あ……、シズちゃ、ん」
「良い顔してるぜ、イザヤ君よぉ」

 唇の次は首に噛み付く。そのまま喰い千切ってやろうかとも思った。舌を這わせて歯をたてると臨也の身体がびくりと震える。俺の行動に一々反応を示す臨也に感じたのは紛れもない征服欲。俺は確かに興奮していた。

「は、あ……シズちゃ、ぁ、」

 呼ばれて視線だけ顔に向けると、感じてる癖に挑発するような臨也の目が視界に映った。



Strategy





(俺は気付かなかった。まんまと臨也の策に嵌まってしまったのだということに)





2010.1.31


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