※復活/ツナ×山本
※病み系、流血(傷)表現、裏描写注意








コンコン、と控えめにドアをノックする音。入ってもいいか、とよく知る声音が響いたので入室を促す。

「つな、」

がちゃりとドアの開く音の後、山本の姿を認めて、握っていたペンを置いた。

「お帰り山本」
「つな、いつものお願いしたいんだけど……いいか?」

声は笑って平静を装っているけれど、表情は泣き出す前のそれに近い。いいよ、と返せばありがとな、と一言。
手元の書類にさっと目を通す。この程度の内容なら後回しにしたところで問題はない。昔の俺からしたら死ぬほど恐ろしかった、凶暴極まりない俺の元家庭教師様だったが、彼が「早く仕事を終わらせろ」とキャンキャン喚いたところで今の俺には可愛い子犬がじゃれてくるようにしか見えないのである。




「今回はどれくらい?」
「んー……14、」
「けっこう少ないね、珍しい」
「小規模だったし……雲雀が、一緒だったから……」
「場所は?」
「首が3、腹が右3左5、胸2、左足1……だった」
「ふーん……」

山本の裸なんてもう見飽きるくらいだった。前回の傷がうっすらと残るそこに、また、同じことを繰り返す。

「じゃあ、いくよ」
「あぁ、……っ!」

先程山本が言った箇所に小型のナイフで線を引いていく。切れた箇所からうっすらと滲む血が駆り立てるのは、色情だろうか。

「もっと、深く切っていい、から」
「ダメだよ山本、深く切ると、次の仕事に支障がでる」
「っ……、はっ」

似たような傷が増えていく。一通り言われた箇所に傷を付けてからナイフを置いた。この程度の傷ならば、数日も経たずに塞がるだろう。小さな、それこそ自傷行為を失敗したかのような跡が残るだけだ。
血が滲む傷口に舌を這わせると、山本は小さく呻く。傷だけでなく、その周辺を焦らすように舌だけで愛撫していけば、彼の声は上擦り、息が多くなった。

「ん、気持ちいい?」
「はっ、あ、……っ、!!」

胸の傷を舐める振りをしてそこの突起に軽く歯を立てれば、山本は小さく頭を振った。それだけでも感じているのか、山本の自身は緩く立ち上がっている。
この異様な行為――山本が自ら提案した、ある意味での自傷行為――に興奮を覚えてしまっているのは山本だけではない。山本の足に残る傷跡を爪で引っ掻くと、面白いくらいにびくりと山本の体が跳ねた。

「あっ、つな……っ、つな、」
「やまもと、泣かないでいいから」
「うぁ、あ、あ……っ、ぁ」
「……やまもと」

彼の目からはぼろぼろと涙が溢れる。それが決して苦痛や快楽から来るもの、生理的なものではないということを知っている。

「ふ、ぁ、……ゆるしっ、くれ……」
「……やまもと、泣くな」
「っ、あぁっ、……はっ、」

彼が何に赦しを請うのか。
俺はその答えを口に出来ずにいる。



* * *



「報告書持ってきたよ。ねぇ、アレ、なんなの」
「お帰りなさい雲雀さん、お疲れさまです」
「本当、つまらない任務だったんだけど」

苦虫を噛み潰したような表情の雲雀さんにこちらは苦笑を浮かべるしかない。

「アレ、って?」

もらった報告書に目を通しながら、俺はわざわざわかりきったことを尋ねる。雲雀さんの眉間の皺がさらに深くなった。

「あの男のことだよ……山本、武」
「何かしたんですか?」
「アレ、僕の獲物まで殺していくんだもの」
「へぇ……」
「今回、だいたい20……17、8人くらいの規模だったんだけど。そのうちアレが13か14くらいは殺してたよ」
「14ですよ」
「覚えてないよそんなの。なんで君が知ってるの」
「超直感ってことにしておいてください」

そのうち首を切られて死んだのは3人で、腹が右3左5、胸2、左足は1人である……この報告書には、そこまで書いていないだろうけれど。
雲雀さんは、アレと組むと自分のすることが減る、まだ六道と組んだ方がいい、と言って俺の執務室を後にした。そんな雲雀さんに苦笑して、俺は報告書に確認の印を押す。席を立ち、棚からファイルを取り出して今回の報告書を綴じた。
雲雀さんと一緒なら山本もあまり大きく動けないだろうと予想していたのだが、大きく外れてしまった。それこそヴァリアーの面々と組ませるくらいしか方法はないのかもしれないが、それも無駄なような気がする。だって、山本は既に壊れてしまった。
獄寺くんが言っていたが、山本は人を殺す時にはいつも笑っているそうだ。
本当に君たちは馬鹿で、狂っていますよ。以前骸にそう言われたことを思い出すが、まったくその通りだとしか思えない。
山本を歪めてしまったのは俺で、俺はそれを直す術を持たない……いや、本当は、俺が彼を解放すればそれで解決するのだと知っている。だけど俺は山本を手放さないし手離せない。山本が人を殺すことを恐れながら、そうするように促しているのは俺だ。

なんだ、狂っているのは俺の方じゃないか。
わかりきったことを口にして、俺はまた自嘲した。






傷愛




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