※がんだむ00
※ティエリアの話
※多少ティエ→ロク要素あり(ノットCP)
※とにかく暗い





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 何もない空間だった。そこにただ浮かぶようにしていた。寒くもなく暖かくもない。痛みもなければ空腹を感じることもない。ティエリアが目を覚ましたのは、そんな場所だった。
 ああ、俺はここに覚えがある。ティエリアは感覚的にそう悟った。かつて、あんなにも盲信し、絶対だと思っていた、ヴェーダ。ここは、そのヴェーダの中だ。

 本当に、見渡す限り何もない場所だ。ただ光の粒子が散乱し充満していて、幻想的な雰囲気を醸しだしている。そしてティエリアは、自分の肉体が既に死亡していること、ヴェーダと直接リンクして、刹那たちをサポートし、リボンズ・アルマークと決着をつけたこと、「来るべき対話」に備えて眠りについたことを思い出した。あれはいったいいつのことだったか。この空間での時の流れは不規則で、永遠にも一瞬にも感じられる。

 肉体を持たないティエリアに残されているものは、思考と記憶、その二つだけだった。しかしそのうちの記憶というものがいかに曖昧で弱いものかということをティエリアは知っている。薄れゆく記憶を繋ぎ止める術をティエリアは知らない。
 人間なんだからそんなの当たり前だ、それでいいんだよ、と言って頭を撫でてくれた人のことも、絶対に忘れることはないと思っていたのに、その手のあたたかさや感触が思い出せない。そんな当たり前なら欲しくなかった、とティエリアは思う。忘れたくなど、なかったというのに。

 そういえば、ティエリアは考える。昔は死ぬことを考えていた。僕を人間だと言ってくれたあの人が死んでしまったとき。あの時は自分が死ぬことを何とも思わなかった。むしろ死にたかった、そうすることであの人に会えるのならば。今、自分は肉体の死を迎え、ここにいる。死んでしまえばあの人に会えると、生まれ変わってあの人にもう一度会いたいと、馬鹿みたいに思っていた。だが、自分が実際に死んだ今となってはそれらを信じることなどもう出来ない。あの人と会うこともなければ、自分が生まれ変わるなんてこともあり得ないと知ってしまった。

 そんなティエリアに残されているのはもはや思考だけだ。あの人に会いたいと思うのに、あの人が誰なのかもうまく思い出せない。何故自分がここにいるのか、よくわからない。ティエリアはもう何も見るまいと目を瞑ろうとしたが、そもそも自分には瞑る目もないのだということを思い出した。思考だけ、思考だけしかない。こんなの、人間じゃないな、とティエリアは自嘲する。自ら望んでこの中に来たというのに、なんて様だ。刹那を、仲間を助けられて良かったと思うのに―――イノベイドで良かったと思うのに、心が拒否をする。それは、スメラギや仲間たちが―――そしてロックオンが認めてくれた“ティエリア・アーデ”という“人間”を否定してしまっているからに他ならない。ティエリアは 泣きたかったが、そこで気づいてしまった。


 そもそも私には、泣くための肉体がなかったのだと。





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