空が、酷く青かったのを覚えている。

「ばか、ひっぱるな」
「ひっぱってなんかいません、あなたがついてこないのが悪い」

 しゃらり、細い手首を繋ぎとめている鎖が音を立てる。
 とても暑くて、汗でシャツが背中に張り付いた。
 カンカンカン、階段を駆け上る、竜崎は僕の少し前を行く、僕は引きずられるように後を追った。
 がちゃり、ときつく閉じられていた屋上の扉を開け放つ。
 目が覚めるような青が視界に飛び込んで、さわやかに通り抜けた風の心地よさに目を細めた。

「ああ、夏ですね」
「それだけのためにわざわざ?」
「たまには息抜きでもしないと疲れますから」

 外出を極端に嫌う彼が、わざわざ嘘を吐いてまで見せたその優しさ。
 事件が解決したら海に行こうよと言うと、彼は寂しそうに笑った。
 僕はそれに気づかないふりをした。

 僕と彼が一緒に過ごしたのは後にも先にもあの夏だけで、うだるような夏の日差しも、窓を開けて入り込む風も、蝉の声や、あの酷く青い空は、もう二度と戻ってこない。


「海に行こうか」


 思い立ったようにつぶやくけれども、この手首の先に答えてくれる人はいない。


 ああ、今日は酷く空が青い。



last summer vacation



 ああ、なんていうお別れ日和



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