「ほら流河、どっちが裏でしょうか」
夜神は何が楽しいのか、クスクスと笑いながら小さな紙の輪をくるくると指で回している。
「? メビウスの輪ですか、それ」
「そう、で、どっちが裏だと思う?」
「どっちも裏じゃないですし、どっちも表じゃありません」
私がそう答えると、夜神はつまらなさそうに顔を歪めた。
「まったく、流河は面白いんだけどつまらないな、」
「夜神君はよくわからないことを言いますね」
「そう?」
先程から夜神は笑ったり黙ったりを繰り返してばかりいる。本当によくわからない人間だ。
「そうだ、流河、」
「なんですか」
「さっきの、半分は正解だけど半分は間違いだよ」
「なにをいきなり、」
「どっちも裏ではないし表でもない、だけど、」
「だけど」
「どちらも同時に表でもあり、裏でもあるんだよ」
夜神は指で小さな紙の輪を辿る。スタート地点さえもわからずに、指先で輪っかをいじり続ける夜神はどこか寂しげで、帰り道を見失った幼い子供のようにも見えた、が、それもただの見間違いかもしれない。あるいは、自分自身、夜神がそう在ることを望んでいるのか。
どこまでが夜神月なのか、そしてどこからがキラなのか。当時の私はそればかりを気にしていて、何かを見落としていたのだろうか。
今思えば、彼は夜神月であり、同時にキラであった。
どちらも彼そのものであり、切り離して考える方がおかしかったのだ。それこそ、メビウスの輪のように。
スタートもゴールもわからなくなって、泣いている夜神、
それもまた、彼だった。
メビウス