例えば、二人で逃げられたなら、二人でしあわせに暮らせたなら、という話。





「竜崎、今日はいい天気だよ」
「本当ですねぇ、お昼寝日和です」
「なに言ってるんだ、散歩日和だろ、」
「いいえ、こんなに天気が良いのですからここは是非お昼寝を決行すべきです」
「馬鹿も休み休み言え、体を動かさないでどうするんだ」

二人は互いに折れることを嫌う、でも先に折れるのは、大抵が竜崎のほうだった。

「せっかく良い天気だし…この間買い物に行ったとき、桜が満開だったんだ、竜崎にも見せたいんだよ」
「……仕方ないですね、一緒に散歩しましょう、私も桜はすきです」

その声に夜神は顔をぱあっと輝かせて竜崎の方を見た。その顔を見る度に、竜崎は幸福を感じている。

「もうすっかり葉桜ですね…」
「ごめん」
「別に怒っていませんよ、それよりほら、」
「?」
「しろつめくさがこんなに咲いています、」
「本当だ、気付かなかった」
「桜が咲いていたら、私も足元の綺麗なしろつめくさには気付きませんでした、葉桜だから、気付いたんですよ」
「……ありがとう、」

二人が望んでいたのは、ありふれた、普通の、普遍の、当たり前のようなことだった。

「四葉のクローバーでも探しましょうか」
「どっちが先に見つけるか、競争だな」

ありふれた、普通の、普遍の、当たり前のようなことが二人にとってはしあわせだった。

「今夜は手を繋いで寝ましょう」
「四葉のクローバーを握って?」
「ええ、良い夢が見られそうです」
「それは楽しみだな」

ただ、それだけのこと、それだけの風景が、二人の目には鮮やかに、優しく色付いて見えた。




ただそれだけの風景





ふたりを繋ぐ、しろつめくさの拙い指輪。


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