風が吹いて、君の声が聞こえた気がして夢から覚めたら、
コーヒーを両手に握り締める。
じんわりとてのひらに伝わる熱が心地よい。
「ライトー、」
ミサが呼んでいる、小さな頭が揺れている。
「急に呼び出しちゃってごめんね、」
「あぁ、別に構わないよ、場所を指定したのはこっちだしね」
久しぶりに時間が空いちゃって、でもライトがちょうど空いてる時で良かった、
そんな風に笑う彼女は可愛い。
「それにしても、ここ、良い雰囲気ね、」
「あぁ、僕のお気に入りなんだ、」
そういえば昔、似たようなことを言った気がする。そうだ、あの時自分の目の前に座った男はコーヒーにミルクを3つも入れたくせに一口も飲んでいなかった、
(なんでそんな些細なことでさえ僕は忘れてくれないんだろう)
ミサはニコニコしながら話をしている、僕は時折相槌を打ちながら静かにそれを聞いている。
握り締めたコーヒーカップが温くなって、ミサはまた仕事に戻るらしい。
ミサが僕を呼び出してくれて良かった、あの部屋でLを演じ続けるのはとても疲れるから。
「ありがとう、ミサ、」
「ううん、こっちこそいきなり無理言ってごめんね」
ライトはもう少しゆっくりしてると良いよ、そう言って彼女は仕事に戻っていった。
向かい側が空いてしまった座席をぼんやりと眺める。
少しだけ、あの頃に思いを馳せる、目を閉じて、温くなってしまったコーヒーを飲み干した。
その晩、僕は久しぶりに夢を見た、
僕は何かを繋ぎ止めようと必死になっていて、
瞬きをすることすら忘れている、
風車がくるりくるりと回っていて、
つまりその世界では風が吹いていて、
柔らかな彼の影を拐っていった、
歪んでしまった僕の車輪は転がっていく、
君は笑っている、だけど此方を見ない、
朝が来て、君の声が聞こえた気がして夢から覚めた、
柔らかな太陽が、ただそこに揺れていた、
over blow
(それ以来、僕は彼を夢見ない、)
―…―…―
(♪over blow/GARNET CROW)