めそめそめそめそ、目の前の男は泣きつづける。いったいどうしたんだ、と声をかけると、めそめそ泣くのを中断して答えた。月くんが死んでしまったんです。めそめそをまた再開させる男に僕はまた尋ねた。僕が死んだってどういうことだ僕はこうして生きているのに。男は泣きながら言う。夢の中で月くんは死にました小さな倉庫の中で死にました私は月くんに声をかけるのに月くんは気付いてくれないんですあなたが死んでしまったんです。そうやってめそめそ泣く目の前の男を見ていると、なんだか僕も悲しくなった。勝手に自分を殺されたことよりも、目の前のこの男を一人にして先に死んでしまった自分が許せなかった。だから僕はまた声をかける。大丈夫だよ竜崎僕はお前より先には死なないよだから泣かないで。男はめそめそ泣くのを止めて抱きついてきた。その小さな頭を抱きかかえて、ゆっくりと撫でてやる。幼子をあやす母親のように。らいとくんらいとくん、と幼子は言う。どうした竜崎。らいとくん、私から離れないでください私よりも長く生きてください私よりも先に死なないでくださいらいとくんお願いです。そんなことを言う目の前の男が、ただただ愛しかった。




僕は結果的に約束を守った。彼よりも先に死なない、ただそれだけのことを守り通した。
あのとき彼の頭を撫でた手のひらの感触のひとつひとつが今でもこの手に残っている。
彼と交わした約束は今でも心の奥底で引っかかっている。かりかりかりかり、心の奥底を引っ掻いている。




手のひらに残る感触のひとつひとつが今でも


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「見えない臓器の名前は」
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