※L月同居パラレル
※名探偵でも犯罪者でもない二人





 アイスが食べたいと男は駄々をこねる。お前は小学生か、と思ったが、残念なことにどうやら僕はこの男に甘いらしく、冷凍庫に残っていた自分の分のアイスを彼に差し出すことにした。

「いやあもうすっかり夏ですね」
「小学生はもう夏休みらしいね、ニュースで言ってた」
「月くんの夏休みはいつからですか」
「8月入ってから。竜崎は」
「休みにしようと思えば今からでも」

 アイスを頬張りながら答える竜崎に適当に相槌を打った。僕は竜崎が仕事らしい仕事をしている所を見たことがない。ただ、ちゃんと家賃は払っているし……というか、僕たちの生活費はほとんど竜崎が出している(僕も払おうとするのだが、学生に払わせるほど甲斐性なしではありませんと断られてしまうのだ。だから僕はバイト代をほとんど貯金に回している)ので、何かしら仕事をしているんだろうなぁとは思う。どちらにしても、日中学校に行っている僕にはわからないことだ。

「それにしても暑いですね」
「まぁ、夏だからね」
「クーラー入れてもいいですか?」
「昼間からクーラーは駄目だ、環境にも身体にも悪い」

 僕の言葉に、竜崎は少し不満そうにしてみせる。口にくわえたアイスはもう棒しか残っていなくて、食べるの早いなぁとよくわからないが感心した。

「そうだ、明日海に行きませんか?」
「海?って、明日は平日なんだけど」
「世間様は夏休みですよ」
「大学生はまだ学校」
「でもこの時期の海は人が多そうで嫌なんですよね……」
「人の話聞いてる?僕明日学校。あと人が嫌ならやめればいいだろ」
「海外に出るか……それとも近場を買い取って……」

 がじがじとアイスの棒を噛みながら、竜崎はなにやら物騒なことを口にしている気がする。海外?買い取る?こいつは何を言っているんだ。

「妥協しました」
「え、何が」
「ちょっと遠出になりますが、国内にします。海外ほど遠くはありませんし良いでしょう。プライベートビーチなので人もいませんし」

 という訳で、明日は朝早くに家を出ますよ、と竜崎は表情一つ変えずに言う。僕はあいた口が塞がらない。プライベートビーチってお前、何の仕事してるんだいったい。というか僕は明日は学校で、今だって明後日締め切りのレポートを書いているところだというのに。

「どうしたんですか、水着なら明日行く途中で買ってあげますよ」

 意思の疎通が出来ないとはこのことだ。竜崎が強引なのは今に始まったことじゃないし、それらに一々反抗していたらこっちの身が持たない。竜崎の頭の中はもうすっかり明日の海でいっぱいらしく、海にはやっぱりかき氷ですよね、なんて笑った。
 僕は大きな溜め息を吐いて、明日の講義の代返を誰に頼もうか、なんて考えている。



7月20日の話





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