僕のせいなのはすべてわかっていた、だから構わなかった。僕の願いは叶ったのだ、このノートを手にしたことによって。
 でも、そのかわりにたくさんのものを無くしたのだ。

「僕の秘密をお前にあげようか」

 竜崎はこちらを見る。じっと見つめて――首を横に振った。屋上、風が強くて、フェンスを握り締める手が悴んでかなわない。

「あぁ竜崎、僕はね、」

 何も言わない竜崎に手を振る。とうの昔に捨てた思いだった。夕方。手錠はもう音をたてない。左手は軽い。鎖は既に切れていた。

「こわかったんだ、よ」

 信じてくれとは言わないけどね。竜崎の瞳が揺れたような気がした。夕方が落下した、そして、僕も。
 さよなら、と口が動いた。ありがとう、とも。
 夜神が落ちていく、夕方と共に落下する。

 すべてが夢だった。夜神は、二十日程前に死んだ。ノートを燃やす前に、そこに書き込まれた文字を見た。ぎっしりと書き込まれた人の名前。その文字が震えていることには気付かないフリをする。私には、夕方は拾えなかった。

私の願いは叶った。そして全てを無くした。
 私と、彼は間違っていたのかもしれないが、それでもよかったのだ。

「私の秘密をあげましょうか」

 そう言うと、落下する夜神は首を横に振った。





CRAWL





 終わりの日、屋上。私はまた、夜神の落下を見る。雨は降らない。
 抜けるような晴天の今日。私も、夕方と落下する。


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -