ふと何かを思い出したように、夜神は口を開いた。それは竜崎が実に13個目の角砂糖を、不釣り合いな程上空から彼のカップに落とし入れた時のことである。飛び散る琥珀色の液体を気にせず角砂糖を落とす竜崎に対して、不快感と呆れと諦めをないまぜにしたような表情を貼りつけたまま、夜神は呟いた。


 竜崎を見てると何だか納得できるなぁ


 夜神の言葉は脈絡など無いに等しく、前後の文脈判断も出来ないものだったために、竜崎は眉をひそめた。せめて主語と述語くらいははっきりしてもらいたいものだと内心でごちる。だが自分では心の広い人間だと勘違いも甚だしいことを思っている竜崎は、根気強く夜神に問いかけた。


 何が納得できるんですか?良かったら教えていただきたいですね

 甘党の話さ

 甘党、

 そう、甘党


 夜神曰く、竜崎は甘党をまさに体現しているのだという。今更何を、というのが竜崎の正直な感想だった。


 私を甘党だと言わない人はまずいないだろうとは思ってますよ

 いや、そういう話じゃなくてさ

 ?

 中学生の時だったかな、英語で甘党のことをなんて言うのかを知った時に、ちょっと納得できなくてね

 はぁ、

 いくら甘いもの好きだからって、そこまで甘くなるものかな、って疑問に思ってたんだよ

 なるほど

 だから竜崎を見て、これなら確かに甘そうだと思ったわけさ


 まあ、それでも半信半疑だけど、と夜神は自らのカップを手にとり、砂糖も何も入っていない琥珀色の液体を口に含んだ。


 だいたい、歯が甘いなんて信じられるか?まあ英語にしろ何にしろ、言語にありがちな比喩表現だってのはわかるけどさ

 …ならば、試してみますか

 は?何を――


 竜崎は抵抗しようとする夜神の手首を掴むとそのまま夜神に口づけた。いや、そんな甘ったるい表現では足りず、むしろ噛みついたと言った方が余程似つかわしかった。
 自らの舌を突き出し誘うようにしてやると、やんわりと夜神の方から舌を動かすようになる。ぎこちないながらも、気持ち良さげに眉を下げ目を瞑ったまま舌を絡める夜神に、竜崎は少なからず征服感を感じていた。
 ゆっくりと歯列をなぞる夜神の舌を甘噛みすれば、ふ、と鼻から抜けたような小さな声が漏れる。
 どれくらいの間そうしていたのかわからないが、口を離すころには既に互いの口周りはどちらのものともつかない唾液で濡れていて、夜神は息を整えながら竜崎を睨み付けた。


 どうですか、疑問は解消しましたか


 竜崎の問いかけに、夜神は耳まで赤くさせて、知るか、ばか、と幼稚な文句を吐き出した。





sweet tooth



(甘い甘い口づけは
甘党のせいか、それとも、)





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