※古キョン
(これはある男子高校生二人の会話である。)
(二人は同じ部活に所属している。)
(現在部室にいる二人だが、他の部員はそれぞれ何らかの理由があって部室にはいない。今、部室には彼ら二人だけである。)
(彼らは特にすることもなく(彼らの部活動には特に決まった活動があるわけではないのだ)、いつも通りボードゲームをひっぱりだして、二人はそれに興じていた。)
(そうしてしばらくした後、一方の少年が相手に話かける。)
(ただの仮定の話のようだった。)
――例えば、僕が貴方のことを好き……もちろん友情ではなく恋愛としてですよ。そうであると仮定して。あくまでそれは仮定であって、実際にはありえないんですけどね。仮にそうだったとして、貴方はどんな反応をするのでしょう。
――ああ……そうだな、ちょっとシミュレーションしてみよう。……そうだな、仮にそうなのだとしたら、俺はお前を抱き締めるよ。
――男同士ですよ。気持ち悪くないんですか。
――言われてみれば確かに気持ち悪いな。だがそれでもいいさ。その仮定の中では、俺もお前のことが好きなんだからさ。
――へぇ、そうなんですか。仮定って凄いですね。幸せな二人の誕生じゃないですか。
――まったくその通りだ。仮定だったら、障害も何もないしな。誰も何も文句なんて言わないさ。
――もちろん、仮定の話ですよね。仮定の話には、男同士とか、神様とか、ぜんぜん、これっぽっちも関係ないですからね。
――神様ねぇ。俺はお前の言う神様ってやつも、けっこう好きなんだけどなぁ。仮定の話の神様は、こんな俺たちを祝福してくれるんだろうな。
――僕も神様はとても好きですよ。貴方が神様のことが好きだと言うのが聞けて、今とても嬉しいです。仮定の話なら、神様だって宇宙人だって未来人だって僕たちを祝福してくれますよ。
――そんな凄いメンバーに祝福されるなら、仮定の中の俺たちはとんだ幸福者じゃないか。凄いな。
――本当ですね。ああところで。
――どうした。
――これは仮定の話ですよね?
――ああ、もちろんだ。もちろん仮定の話だよ。
――そうですよね。いえ、仮定の話をするのも悪くないと思いました。いい暇潰しにはなりますね。
――そうだな。あのさ、こいず――。
(少年が口を開きかけた時、部室の扉が勢い良く開かれる。)
(他の部員が帰ってきたようだった。)
(二人は仮定の会話をそこで終わらせる。)
(いつも通りの、賑やかな部活動の始まり。)
(他の部員の中でも特に元気の良い少女が、明日の探索のことなんだけど! と会話を持ちかける。)
(とても可愛らしいメイド服に身を包んだ他の部員のうち一人が、二人や他の部員の前にお茶を差し出している。)
(残りの一人(他の部員は三人だったのだ)は、彼女の定位置らしい部室の隅の方で分厚い本を捲り始めた。)
(いつも通りの、賑やかな部活動である。)
(二人の会話は、あくまで仮定の話であった。)
(そう、あくまで仮定の話。)
仮定の話
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古キョン/両想いなのにお互いに想いを伝えられない二人