※古キョン?






「ひっ……!」

 がたがた、と台所の方で物音。どうしたんだと思いだらだらしていた体を炬燵から引っ張り出して音の方に向かうと、声の主・古泉は台所の隅の方で縮こまって震えていた。お前、お茶煎れるっていってこっちにきたんだよな……何してるんだ。そう問いかければ、古泉は顔面蒼白である一点を指差す。

「やかん、落ちてるけど」
「そこ、じゃない……です……」
「やかんの水、床に溢れてるんだが」
「ちが……ちがいま、す」
「ああ、シンクの方か」
「あっ、そんな近づいたら……!」

 古泉の制止の声を無視してシンクを覗き込む。ひぃ、と古泉の声。何にそんな……と思っていたが……いた。黒光りする、例のヤツだ。通称イニシャルG。ごきげんようおひさしぶりってやつだな。
 はぁ、とため息を吐く。古泉はこの世の終わりのような顔をしている。そんな顔するくらいならちゃんと片付けくらいしろってな。毎週毎週俺が週末に来てやらないとこいつはまともに生活も出来ないんじゃないだろうか。
 とりあえず、棚から台所洗剤を取り出す。使い捨ての布巾に洗剤を染み込ませて、ヤツを覆うように被せた。そのまま包み込んで、ビニール袋にイン、袋の口をきつく縛る。袋の上から踏み潰す。さようなら、ごきげんようおひさしぶり。お前のことは……まぁ直ぐに忘れるだろうな。

「退治したぞ」
「ふぇ、」
「なに情けない声出してるんだよ。お前、あいつ怖いの?」
「むり……なんです……」
「超能力者なのに?」
「それとこれとは話が別です……」
「はいはい、いいから抱きつかない、邪魔だから」

 ぎゅっと子供のように後ろから俺に腕を回してくる古泉を軽くあしらう。手を洗って、やかんを拾い上げた。いいからお前は床でも拭いておきなさい。お茶は俺が煎れてやるから。




ごきげんようおひさしぶり、元気にしてた?





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