夏は嫌いだ。何より、暑い。急激な気温の変化は体力をすぐに奪っていく。じわじわと侵食してくるような暑さが苦手だった。
 今日だって。

「おい臨也、手前なんで池袋に来てんだよ」
「……仕事なんだから放っておいてよ、もう終わったからすぐに帰るって」
「だめだ、手前が池袋にいると思うだけで虫唾が走るんだよ俺は」

 本当は外を歩くのも嫌だった。日に焼けるのがまず好ましくなかったし、クーラーのない野外は体力をじわじわと奪っていく。それなのに、池袋での用事が出来てしまったためにわざわざここまで足を運んでいた。……苦手な、夏よりも苦手で大嫌いな天敵のいる、池袋に。
 見つからずに仕事を終えて帰るつもりだった。蝉の鳴き声が耳に障る。実際仕事もスムーズ終えることが出来て、ほっと胸をなでおろし、帰ろうとしていた矢先だったのだ、シズちゃんに見つかってしまったのは。

「たのむから、さ、見逃してくれないかな……」
「何言ってんだ手前、ここであったが最後、息の根とめてやるしかねえだろうが」
「……、も、ほんと、シズちゃんって……」

 ミンミンミン、蝉の鳴き声が鼓膜を震わせる。ガンガンと頭が痛いし、目の前が歪む。蜃気楼、か? その判断もはっきりとできない。汗が、ぶわりと噴きだす感覚。

「……い、おい、臨也……!?」
「ぅ……? あ……?」

 カクン、と。足元から力が抜ける。『35℃超えるらしいっていうのにそのコート、暑くないの貴方。熱中症になっても知らないわよ私。お願いだから迷惑だけはかけないでね』出掛ける間際の、優秀な助手の台詞が頭を駆け巡る。あ。

 熱中症、か。



* * *



 目が覚めると、そこはオンボロアパートでした。
 ベッドに寝かせられている、という認識はある。しかし硬い。コートは脱がせられていて、扇風機の風が心地よかった。

「よお、目ぇ覚めたのか」
「……は、……えっ!?」
「なんだよ、手前がいきなり倒れるから連れてきただけじゃねえか」

 ウソだろ、おい。どうやら俺はシズちゃんの家にいるらしい。たしかに古い安っぽいアパートはシズちゃんらしかった。というかこの部屋、クーラーすらないのかよ。

「ほら、これでも食ってとっとと出てけ」
「……嘘だあ、シズちゃんが優しいなんて」
「あ……? 俺だってなあ、弱ってるヤツに手え出すほど腐っちゃいねえんだよ、手前と違ってよ」
「ずいぶんと引っかかる言い方だねえ……」

 黙って受け取りやがれ、とシズちゃんが差し出してきたのは、アイスだった。バニラのアイスバー。シズちゃんも自分の分としてイチゴミルク味のアイスバーを持っている。そういえばこいつ、高校時代から甘いもの大好きだったっけ。

「ほんと、見た目に合わないんだから……」
「なんか言ったか手前」
「なんでも」

 まあいい、俺もアイスは好きだ。ぴり、と包装を破り、口に含む。口の中に広がるミルクの味とその冷たさがたまらなかった。ぺろぺろと無心に舐めて早く出て行こう。そう思っていると、やけに視線を感じる。

「……なに、シズちゃん……そんなに見られてると食べにくいんだけど……」
「……手前は、わかってんのか」
「は?」

 突然だった。
 俺は確かに、ベッドの上で、上体を起こしていたはずだった。が、なぜ、今俺は天井を見ているんだ……?

「手前は、」
「シズ、ちゃん、」
「そんな簡単に誘ってんじゃねえよ」

 しまった。
 そういえばこの男は。
 常に、脳内発情期のAV脳をした男子高校生並みだった―――。



* * *



「っ、はっ……んっ、も、しずちゃ……っ!!」
「はっ……」

 ぐちゅぐちゅと、嫌な音が狭い室内に響く。ほんと、ふざけんな。
 中はすでにシズちゃんの規格外なモノでいっぱいになっていて、軽く揺すられただけで腰がビクつく。後ろから覆いかぶさるような体制で貫かれて、もう死にそうだった。この化け物め。

「んっ……! よ、わってる、相手には、手、ださないんじゃ、な、かった、の……っああ……!!」
「それとこれとは別だろうが……ここ、おっ勃たせてるくせによく言えるじゃねえか、いざやくん、よおっ!」
「ひっ……!! あ、あ、っ……そ、こ……むりぃ……っ!」

 ぐっ、と弱いところを執拗に刺激されて、勝手に声が漏れ出てしまう。ただでさえ暑くて頭が朦朧としているのに、この男は本当に容赦ない。

「もっ……あつ、あついからぁ……し、ぬ……っ!!」
「あ……? ……わかった」
「へ、……? ……っひ、んぅ……!」

 ズッと中のモノを引き抜かれる感覚にぶるりと身体全体が震える。腰を支えていた腕が離れて、どさりとベッドに崩れ落ちた。
 ぼんやりと蕩けた脳で、呼吸を整える。ハッハッと吐き出した息はまるで犬のようだ。シズちゃんはどうやら台所に向かったらしい……嫌な、予感しかしない。

「イザヤ君よお、俺は優しい男だよなあ」
「……シズちゃん、」
「手前が暑い暑いって言うから」

 でもクーラーはないし、仕方がねえからよ。

 そう言って、シズちゃんが取りだしたものに眩暈がする。

「……っこの、へんたい……」
「あ? 手前が暑いっつったんだろうが」
「言った、け、ど……ひ、嘘、嘘だろ、や、ひい……っ!!?」

 ひんやりとした、冷たい物体が後孔にあてがわれる。食べ物で遊ぶなって教わらなかったのかこの男……!!
 そう、この男は、変態野郎は、人の後ろに……アイスバーを突っ込もうとしているのだった。身を捩って振りほどこうとするが、がしりと腰を掴まれてしまってはそれも叶わない。

「おー……暑いってのは本当だったんだな、すぐ融けてきやがる」
「しず、ちゃ……」
「少しは冷たくなったか?」

 ニヤニヤと。男のその顔が本当にムカツク。体中が熱くて仕方がなかった。全身から汗が噴きだす。入れられたアイスのせいでひんやりとしたソコに、再びシズちゃんのが突きこまれて息が止まるかと思った。

「っ……!!!」
「おい、手前の中、まだ熱いじゃねえか……」
「や、あ……!!」

 もう一本分入れておくか? と、無茶苦茶に腰を揺さぶりながら、シズちゃんが耳元で囁く。それだけでもう、身体の熱が上がっていく感覚がした。息が苦しい。

「……おい、聞いてんのか」
「……ぃ、ああああ゛っ……!!!」

 返事も出来ないでいると、胸の突起をきつく抓られた。もう無理だと思うのに、弱いところばかりを弄られて、もう、限界だ。意識が飛びそうになる。苦しい。熱い、暑い。

「……臨也……」
「う……あ、……し、ね……っ!!」

 最後に。
 朦朧とする意識をつなぎとめることを放棄して、それだけ言い残して、果てた。
 ざまあみろ、平和島静雄。お前なんか、勝手に一人で抜いとけばいい。


(目が覚めた時、覆いかぶさったままのシズちゃんに再び絶望することを、俺はまだこの時、知らなかった。)






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こんなものですみませんんんん
夏に弱い臨也さんもえ
如月さん15万おめでとうございました!!

2010.7.25
ねこむら


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