この想いを口にできればどれだけ楽なことだろう。

「どうした、古泉」
「あ…いえ…何でもありません、只の気のせいでしょう」
「?」

 彼に声をかけられたことによる動揺を、先程から頻繁に感じる異様な程の既視感のせいにして誤魔化した。




真夏の夜の夢




 1万数千回の繰り返しに気付いた夏の話。

「背後から突然抱きしめて、耳元でアイラブユーとでも囁くんです」

 僕にとって、彼女は特別な存在だ。それは彼女が神だからとかそういった理由からではない。一人の女性――いや、人として、とても大切にしたいと思う存在。恋愛ではなく、ただ守りたいと思う存在。

「拒否権を発動するぜ、パス一だ」
「では、僕がやってみましょうか」

 ――あぁ、その時の彼の表情も、きっと何度も見ているに違いない。そして僕はその度に確信しているんだろう。彼と彼女の関係。きっと、彼女たちは両想いだ。
 その事実は僕にとって嬉しいもののはずだ。それなのに、こんなにも胸が苦しい。軽いジョークですよ、と笑ってみても、苦しくて仕方がない。
 この苦しさも、1万数千回の繰り返しの中で何度も味わっているんだろう。だから、だからこんなにも苦しいに違いない。積み重なって、心が悲鳴を上げているのだ、きっと。

 この想いを――彼が好きなのだと、彼に告げることが出来たのならば、僕はきっと楽になれる。それが出来ないのは、この関係を壊したくないと願うからだ。受け入れられるはずのない想いは、優しい彼を苦しめる。彼と僕の関係も、彼と彼女の関係も、そして大切なこのSOS団という関係すら壊してしまうだろう。それは耐えがたいことだった。

 彼女のことが好きで、彼のことがすきで、僕にとって大切な二人が幸せならば、僕も幸せなのだ。二人を困らせる訳にはいかない。
 どうせループする世界ならば、この想いを打ち明けてしまおうか。そう思って、すぐに苦笑する。僕には、そんな度胸はない。
 世界を壊したくないと願う、それも確かな事実だ。けれども、本当はそれ以上に、彼に嫌われることを恐れている。例えループする世界だとしても、怖くて怖くて仕方がない。だからこの想いを打ち明けられない。いっそ狂ってしまえたならば、その方が良かったのかもしれない。何も気にすることもなく、彼をさらって逃げてしまいたい。でもそれが出来ない。踏み出せない。

 ただ必死に、この想いを悟られないようにするので精一杯だった。この想いは、一生打ち明けられることはないだろう。

 一生の秘密。僕はただ、臆病なだけだ。





* * *





「では、僕がやってみましょうか」

 この言葉も、覚えていないけれど恐らく何度も繰り返されているんだろう。だから、こんなにも辛い。そんな、何でもありませんって顔して言うなよ。軽いジョークですよ、なんて、そんな声で。お前は笑ってるつもりなんだろうが、全然笑えてないんだよ、そんな、辛そうにしやがって。

 古泉から向けられる感情が、ただの友情ではないことに気付いたのはいつ頃だっただろうか。そして、それが嫌ではなく、むしろ嬉しいと思っている自分に気付いたのも。
 だが、そのことを俺が告げるのは、恐らく古泉が最も望まないことだ。
 こんなにも世界に気を使って、自分の感情を押し殺して、当たり前の普通とはかけ離れた中、何でもないことのように振る舞うこいつの努力を、どうして俺が無駄にするような行動を出来ようか。それは、例えループしている世界であっても変わらない。

 だから、俺は何も出来ずにいる。

 この恋は、一生の秘密。
 この夏も、夢のように過ぎていって、また抜け出せない。








25000hit企画
古キョン/キョンのことが好きで好きで狂いそうだけど隠す古泉と、古泉が自分を好きだということを知っているキョン


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