※キョン古







 蝉の声が聞こえてくるんじゃなかろうかと思われるほどに暑い7月初頭。梅雨明けの宣言はまだなされておらず、それでも日射しは既に夏のそれだ。制服はもう夏服に移行していて、袖から覗く白い腕が眩しい。露出が増える季節、目の保養だね、まったく。
 それにしても、最近のこの天気はなんなんだろうか。異常気象だわ、太陽はもうちょっと休みなさい、なんて俺の後ろから聞こえてくるが、それには俺も賛同しよう。まぁ、ハルヒなら夏真っ盛りになったときは「もっと太陽は働きなさい!夏は夏らしく暑くならなきゃ!」なんて言ってそうだがな。不思議なことが大好きだと公言しておきながら、そういうところは変に常識人というか、「こうあるべき」という考え方を好んでいる節がある。




「それにしても暑いですね」

 放課後のことである。楽しい楽しい団活動の時間、女子三人は朝比奈さんの新しい衣装を買いにいくのだとショッピングに出かけているため、この元文芸部の部室には俺と古泉の二人しか残されていない。窓を開けていても中々風通しが良くないせいで蒸し暑い。

「暑いのはわざわざ口にしなくてもわかる。って、お前は本当に暑いのか?涼しい顔しやがって」

 ちらりと古泉の方を見れば、暑いと口では言うものの汗一つかいていないように見える。この気温と湿度でそんな涼しげな顔をしている古泉がなんだか憎らしい。

「いえ、ちゃんと暑いと思ってますよ。ただ、元の平熱が低いせいかあまり表にはでないみたいです」
「ほぉ、何度くらいだ?」
「35度代前半ですかね」

 ふーん、と適当に聞き流しながらカードを手に取る。あまりにやることがなくなって、今はトランプタワーを作っているところだ。幸いにもここにはトランプが3組ほどあるので、何段でも作れそうである。まぁ、それはそれだけの技術が俺たちにあれば、の話だが。俺は今4段目に突入したところで、最終的に7段作れるような段組で作ってある。古泉はといえば、器用そうに見えるのに先ほどから2段目に苦戦している。こちらも目標は7段だ。

「いいなぁお前、平熱低くて」
「よく言われます、クラスの人なんかにはベタベタ触られますしね」
「へぇ、」

 お前クラスに友人がいたんだな、なんて失礼な感想を抱きながら、5段目に突入する。こいつ、クラスの奴らには簡単に触らせてんのか…まぁ別にそれがどうという訳でもないが。それにしてもこの部屋は暑くてなんだか苛々する。とその時、あ、と古泉の声。視線を声の方に向ければ、古泉のタワーは無惨にも崩壊していた。

「お前不器用だな」
「いやぁ、恥ずかしながら」

 あはは、と笑いながら古泉は再びカードを手にとる。その指先をじっと見つめていると、なんとなくそれが気になるらしく、古泉が視線をこちらに向けた。

「なんでしょうか」
「古泉、手ぇ貸してみろ」
「え?あ、はい」

 俺の言葉に訳もわからぬままに差し出された古泉の手を握る。おお、確かにどことなくひんやりしているような気がしないでもない。

「あー、いいなこれ、気持ちいい」
「え、あ、あの」
「体温低いって羨ましいな…どうした古泉、顔赤いぞ」
「やっ…その、」

 は、恥ずかしいです、とうつ向きながら古泉が言う。あまりに心地よかったため、古泉の手は俺の頬にあてられていた。……確かに、端から見ればおかしな光景だっただろう。先ほどまでの涼しげな顔はどこへやら、古泉は顔を真っ赤にしている。
 でもお前、クラスの奴らには簡単にべたべたと触らせてるんだろう。暑苦しいじゃないか。苛々する。古泉の手はとっくに温くなって汗ばんでいる。どれもこれも、梅雨明け宣言はまだだというのに部室がこんなにも蒸し暑いからで。




 蝉の声が聞こえてきそうなくらいに暑い日だった。
 暑くて、湿度も高くて、不器用な古泉はトランプタワーをすぐに崩してしまって、俺もどこかおかしくて。
 ぱたぱた、と建設中だった俺のタワーが崩れる音が聞こえた。俺は未だに古泉の手を握りしめたままで、このまま時が止まればいいのにと、柄にもないことを考えている。






レイン




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