とりあえず、今日は一日なんでも言うことを聞いてやろう。
ボードゲームだって手加減してやる、説明口調の割に回りくどい長台詞だって我慢するし、一々面倒くさい性格だって見逃そう。
とか何とか思っていたんだが、よく考えたら奴の誕生日は連休真っ盛りの中にあるわけで、よっぽどのことがないと顔をあわせることもないわけだ。ハルヒも流石に連休中全部に団活動を入れる程空気が読めない訳でもなく、まぁ俺の決意は本当に無駄なものだったんだよ。そのまま、連休中にまったく奴と顔をあわせなければな。
「あの、」
古泉は、自分の家だろうにどこか所在なさげに言葉を漏らした。
その言葉を聞いているというからには、勿論俺は古泉の家にいる訳で、なんていうかまぁ、多少は気まずい感じがあるわけだよ。まぁそういうことを承知でここに来ているんだから、俺は相当なものかもしれない。
「あの、貴方が来て下さるとは思ってなかったもので、その、」
古泉の言いたいことはわかるさ。玄関先につっ立っているが、古泉は自分の身体で部屋の奥を遮るようにしている。完璧超人に見えても、やっぱり男子高校生だからな。今の古泉だって、寝起きですといった雰囲気を隠そうとしてはいるものの、微妙に髪の毛が跳ねている。
「部屋とか汚いですし、あの、本当に…」
「気にするな、俺は気にしないから」
「貴方はしなくても僕はするんですよ…」
古泉の表情は不安そのものだ。恥ずかしいとかも混じっているかもしれない。頼りない古泉なんて、カッコ悪い古泉なんて、誰も知らないんだろうな、俺以外。
「俺はな、古泉」
「はい」
「そういう所も全部含めてお前のことが好きなんだよ」
「えっ」
邪魔するぞ、と言って靴を脱ぎ、固まっている古泉の身体を押し退けてリビングに向かう。洗濯物とかが取り込んだまま放置されている。まだ洗濯しているだけましか。そう思いながらとりあえず一枚手に取り、簡単にたたんでいくと、固まっていた古泉がようやくこっちにやってきた。
「……反則です」
「何がだよ」
「僕ばっかり、恰好悪い所も恥ずかしい所も見せて、それなのに貴方は気にしてなくて僕ばっかり気にしてて、とにかく反則です」
「お前、それあんまり理由になってないぞ」
ちょっと笑って、古泉を引き寄せて、跳ねた髪の毛をなでた。古泉も照れ臭そうに笑う。
「自分で言うのもなんだがな、俺がこんなに素直なことってあんまりないんだからな。今日限定だと思ってくれ」
「わかってます…わかってますよ」
でも、そんな素直じゃない所も全部含めて貴方が好きなんですよ、と笑う古泉に、ばーかと一言返した。
古泉の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわして、ぎゅうと背に腕を回す。耳元で誕生日おめでとう、と囁くと、古泉は本当に嬉しそうに笑った。
正しい休日の過ごし方
冷蔵庫の中も空っぽだ。まずは買い物に行かないといけない、古泉と、二人で。