イマジン、想像してくれ。

「貴方が好きです」そう目の前のイケメン野郎に言われたら、いったいどうすればいい。

 俺だったらまず隠しカメラを探すね。このイケメン野郎がわざわざ只の冴えない部活仲間、しかも同性に告白する理由があるとするならば、ドッキリか罰ゲームか。それ以外は考えつかないからだ。それか冗談かこいつが狂ってしまったか。

「ドッキリでも罰ゲームでもありません、真面目に言ってるんです」
「正気か?」
「ほどほどに正気ですよ、貴方の名前も性別も誕生日も血液型もきちんと言えるくらいには。言いましょうか?」
「…いや、お前が正気なのはわかったからいい」

 いつもニコニコと胡散臭い笑みを貼り付けている奴は何処へやら、今現在のこいつの表情は何やら切羽詰まっている。やっぱりイケメンはどんな表情でも様になるんだな…なんて感心してる場合じゃないぞ俺!

「お前のその……こ、告白が、一万歩くらい譲って本気だとしよう」
「譲っていただかなくても本気なんですがね」

 うるさい、黙って聞いてくれ。そう言って軽く睨むと奴は眉を少し下げ肩を竦めた。

「それで、」一体お前はどうしたいんだ。その言葉にこいつはまっすぐな視線を投げた後、軽く目を伏せてから口を開く。「特に何も」

「何も、って」
「すきなんです、ただそれだけです。恋人になりたいとかそういう大それたことを考えている訳ではありませんよ。それに、」

「それに?」勿体ぶるな、と急かすように言う俺に奴が返した言葉がこれだ。「よくわからないんです」

「そもそも……こんな風に誰かを好きになったのが初めてなので…だから…えっと、すきだってことを伝えた後、その、どうすれば良いかなんて考えてもみなかったんです……貴方には、気持ち悪いと一蹴されておしまいだと思ってましたし…ですから、その…今もまだこうして貴方が話を聞いて下さることの方が驚きで…」

 しどろもどろに言葉を紡ぐ古泉からは、いつもの饒舌さや胡散臭さは微塵も感じられない。それどころか、なんだか好感が持てる。

 いつからだろう、古泉がたまに見せる崩した表情を追いかけるようになったのは。ふとした瞬間の何気ない仕草に目を奪われたり、空間を共にするだけで心地好さを感じたり、こんな風に言葉を交わすだけで何となく落ち着かなかったり、気付けば古泉のことを考えていたりするのは、一体、いつから。

「あの、」古泉が心配そうに声を漏らす。それに即座に反応出来てしまうのも何故だ。考え事の途中で谷口や国木田、それこそハルヒに話しかけられたって、そんなすぐに反応出来るほど俺は敏感なヤツだったか?一体全体、どうしたっていうんだ。

「……その、すみません、貴方を混乱させてしまったようです…」
「まぁ、それは…」
「……本当に、すみません…僕が軽率でした」

 古泉は机の横に置いていた鞄を手に取ると、その腰を上げた。

「おい、古泉」
「すみません、帰ります…あの、出来れば、今日のことは忘れてください…」

 それでは失礼します、と席を離れようとする古泉の反対側の席から、がたんと音が響いた。古泉はそれに驚いたように目を見開いている。

 そんな顔で見るな、俺だってよくわかってないんだ。このもやもやとした気持ちも、忘れろと言った古泉に苛々する理由も、全くわかりやしない。手に変な汗をかいている気がする。俺は焦ってるのか?訳がわからん。
 帰るという古泉の言葉に思わず席を立ってしまった理由もわからないし、そしてさらに言えば、そんな古泉に近づいて、奴の制服の裾を握り締めてしまった理由さえ、俺にはさっぱりわかっていないんだ。

少年Kの理解




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