【帝人と臨也】




ばらばらに引っくり返して、中身を漁った。大切な大切な宝物も一緒に仕舞い込んでいたはずなのに、何故か見つからない。

(どうして見つからないんだろう)

おもちゃ箱の中はそれこそガラクタだらけで、到底必要な物には見えなかった。こんなもの入れた記憶なんてない、というようなものまである。

(見つからない見つからない、大切な物が、)

「やあ帝人くん。君はそんなに必死に、何を探してるのかな?」

がさごそと箱の中を見ていると、真っ黒なペテン師が僕に声をかけてきた。にこやかなその表情は、まるで天使のようだ。しかしこの人はただのペテン師で、天使からは程遠い所に位置しているという事実を忘れてはいけない。

「大切なものを探してるんです」
「うん、よっぽど大切なものなんだろうねぇ。さっきから焦った顔をしているし」
「いつから見ていたんですか?」
「さあ、いつからだろう。つい今しがたかもしれないし、最初からかもしれない」

クスクスと、ペテン師は楽しそうに笑う。何がそんなに楽しいのか、僕にはわからない。

「見つからないんだろう、大切なもの。何が大切なものなのか、それすら思い出せないんじゃないのかな?」

そう言いながら、ペテン師は辺りに散らばっていたガラクタの山の中から、黄色いバンダナと日本刀を引っ張り出した。
こんなもの、いつからここにあったんだろう。思い出せない、思い出せない。

「ああ、今の君にはこれは必要なかったね。まあ仮に必要だったとしても、肝心な実物はここには居ないけれど」

黄色いバンダナと日本刀を放り投げ、ペテン師はパチン、と指を鳴らす。その瞬間、無色だった視界が一気に青く染まった。

「これからが楽しみで仕方がないよ」
「そう、ですか」

真っ青な部屋、いや、箱の中で、僕はペテン師の手をぎゅっと掴んだ。彼の笑みは、無邪気で、酷く楽しそうだった。

「大切なもの、思い出せないんです」
「ああ、ならそれはきっと君には必要ないもので、大切じゃなかったんだよ」

おもちゃ箱の中で、ペテン師は笑う。


知らず、口元が緩むのを感じた。


大切なものは見つからなくなってしまったけれど。
楽しい楽しいおもちゃは、僕の手の中に、あるのだ。



おもちゃ箱

101125 (Thu) 23:45

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