【新羅と臨也/来神】




「新羅、現国の教科書さぁ、次の時間使う?」
「いや、こっちのクラスは今日はもう使わないから貸せるよ」
「ありがとう、助かったよ」

休み時間にひょっこりと顔を出した臨也は、キョロキョロと教室内を見渡してから僕に声をかけた。その一連の流れに苦笑してから、臨也が所望する現国の教科書を手渡す。

「静雄なら君がけしかけたチンピラを相手してるんじゃないの?」
「おや、俺がけしかけたなんてよくわかるね!」
「そんなことするのは君くらいじゃないか」

会話の片手間で次の時間の数学の準備をしていると、臨也はひょいと机の上の参考書を手にとった。パラパラとページを捲りながら、臨也は視線をこちらに向ける。

「新羅が参考書を使ってるとは意外だったよ。俺には教科書と参考書の違いがよくわかんないな。教科書だけで充分そうだけど」
「あるに越したことはないんだよ。参考書はまぁ、知的欲求を満たすために、ね。読むだけでも面白いよ」

ふぅん、と臨也が興味無さげに参考書を閉じたのとほぼ同時に、校庭の方から地響きのような唸り声が聞こえてくる。ああ、これは相当キてるな、と臨也を見やれば、「タイムオーバーだ」と臨也は残念そうに肩を竦めた。

「教科書、ちゃんと返してね」
「シズちゃんに汚されないようには気をつけるよ」
「いぃぃぃざぁぁぁぁぁやぁぁぁぁぁ!!!」
「おっと、それじゃ!」

勢い良く投げられる椅子を横目に、脱兎の如く走り去る臨也を見送る。これじゃ教科書は貸した意味がなかっただろうな、と苦笑した。どうせ臨也は次の時間は逃走劇を繰り広げるのだろう。


(教科書と参考書の違い、ね)

ふと臨也の言った内容について考える。自分が参考書を使う理由について考えてみれば、知的欲求を満たすため、としか言い様がない。教科書だけではわからない詳しい内容や、追加の知識が載っている。教科書は、基礎で基本だ。だからこそ、難しくてわかりにくい部分がある。自分にとっての彼女のように。

(ああ、それならば臨也は、参考書だな)

セルティが教科書のように模範的な愛ならば、臨也は自分の欲求を満たすための愛だ。大切さで言えば、教科書に敵うことはない。しかし、欲求を満たすためだけに臨也を求めている自分がいるのも確かだ。

「……違いがわからない、か」

興味の無さそうな臨也の表情を思い出す。それから、大切な大切な彼女のことも。


「参考書も使うけど、まあ、教科書が一番ってことかな」


違いがわからない、なんて。パラパラと参考書のページを捲りながら、苦笑する。
僕にとっては明確に違うのだけれど。



教科書と参考書の違いについて

101123 (Tue) 22:55

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