【正臣と臨也】




「うんうん、流石は正臣くんだ。ご苦労さま、よくできてるよ」
「……ッス」
「ほら、好きなもの頼んで良いんだよ? 早くしないと俺が勝手に頼んじゃうかも」
「……臨也さん、俺が来る前にもう注文してたでしょう」
「飲み物だけね。ケーキでも何でも、追加で注文してもらって構わないよ」

ほら、とメニューを差し出す目の前の男の目を、なるべく見つめないようにした。頼まれていた仕事の報告のために電話をすれば、外で会いたい、なんて言われて。指定された喫茶店に行けば、男はにっこりと微笑んで手を振った。

良くできました、と頭を撫で、子供の工作を褒める保育士や先生のような笑みを浮かべる男は、実際のところは俺をからかって遊んでいるだけに相違ない。なぜならこの程度の仕事、目の前の男……折原臨也ならば片手間でも終わらせることが出来るような内容だったからだ。

「ねぇ、ちゃんとお友達とは連絡取り合ってる?」
「……っ、臨也、さん」
「やだなぁ、そんな睨まないでよ。俺は手出ししてないよ、今のところはね。ただ可愛い部下の友人関係が上手くいってるか訊いてみただけじゃないか」


この人は、簡単に人のことをぐちゃぐちゃにする。この人に関わったら、思考もなにもかもぐちゃぐちゃになって、とてもじゃないけれど冷静ではいられない。
臨也さんの顔を見たくなくて、テーブルの上のグラスをじっと見つめた。冷えた水面が、間抜けな俺の顔を映している。グラスの周りに着いた水滴が滴り落ちる。早く帰りたい。俺は臨也さんが嫌いだ。囁くような甘い声も、すがりたくなるような見せかけの優しさも、嘲笑うかのようなその指先も、何もかも。俺のことをぐちゃぐちゃにして、掻き乱して、嫌いだ。


お待たせしました、という可愛らしいウエイトレスの声に意識が引き戻された。先に臨也さんが注文していたものだろう。彼と俺の前に、それぞれカップとグラスが置かれる。ごゆっくりどうぞ、と言う彼女をぼんやりと見送り、視線を戻した。

「君たちや"あいつ"が普段飲んでるようなファストフードのやつとはちょっと違うかもね」
「……」
「ほら、どうぞ」

甘いもの、嫌いじゃないでしょ? と甘く笑う臨也さんに、俺は吐き気を覚える。

どうしてこんなに嫌なのに。
この甘さに、酔いそうになるんだろうか。


(見せかけだけの甘さで、俺に分け与えるつもりなんてないくせに)




シェイク

101116 (Tue) 22:32

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