【門田と臨也】




いつからか、それは定かではないが、臨也は時折俺の部屋を訪れるようになった。
そんな時、臨也は何も語らない。突然、何の前触れもなく訪れては、来ちゃった、と一言、泣きそうな顔で言うのだ。




「連絡してくれたらもっとマシなもん作ってやれたんだがな」
「ううん、これで十分だよ」

ありがと、と箸をとり、臨也は肉じゃがをつついた。ほうれん草のお浸しに、湯豆腐。昨晩の残り物の肉じゃがと、白菜の味噌汁、白いご飯。

「ドタチンのご飯は、温かいね」
「お浸し、冷たい方が良かったか?」
「ううん、そういう意味じゃなくてさ」

作った人がわかる、優しい味だなって思ってさ。
柚子胡椒を乗せた湯豆腐を一口大に小さく箸で綺麗に取り分けながら、臨也は食事を続ける。臨也は箸の取り方や持ち方、その他の食事の作法がきちんと出来ている。これは食べることが好き、というよりは、作った人に対するマナー、臨也の言うところの人間愛を尊重した結果らしい。好き嫌いはあるが、残すことはほとんどしない。どんなに下手くそで不味くても、最後まできちんと、丁寧に余すところなく食べ尽くす。作ってくれた人に失礼じゃないか、というのは高校時代から変わらず臨也の口癖である。

今日はどうしたんだ、と聞きたいのをぐっとこらえて、風呂を勧めた。臨也は干渉してくることをあまり良しとしない、それはこれまでの経験でわかっていた。

「タオルは置いておくからな」
「ん、ありがと。下着の替えは持ってきてるんだけどさ、寝間着になりそうなのだけ貸してくれる? Tシャツとかだけでも良いから」
「わかった、あとは自分でできるな?」
「……ドタチンも一緒に入る?」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと体温めてこい」
「馬鹿なこととは失礼だね、せっかく誘ってるのに」

クスクスと、口元を緩ませて臨也は笑う。が、その目はまっすぐで、真剣だった。
ここで誘いに乗れば、簡単に逃げて行こうとするくせに。

臨也は、俺を試している。

臨也にとっての俺は、都合の良い知人の一人だ。何も言わずに甘やかしてくれる、頼りに出来る存在。欲望を自分にぶつけてくることもせず、ただ見守り、優しさを与えてくれる存在。臨也は俺の気持ちに気付いていながら、その感情が自分に向けられることをやんわりと否定している。だから、俺は何も言えないし言わない。理性を総動員させて、臨也の望む門田京平を演じ続けるのだ。


このまま、襲ってしまえればいいいのに、とも思う。
逃げる肢体を繋ぎ止めて、欲望のままに貪ってしまえば、と。
それが出来ないのは、この関係が壊れてしまうのが怖いからだ。
セックスしようよ、と耳元で甘く囁く臨也を、馬鹿なこと言うな、と叱りつけ、ただ抱き締めるだけ。
臨也と一線を越えてしまえば、恐らくもう二度とこの部屋に臨也が来ることはないだろう。

だから俺は、何も言わずに受け止めるだけしかしない。

優しさを与えすぎないよう、微妙な関係が崩れないよう、加減をしながら、風呂上がりで濡れたままの臨也の髪を撫でた。


きみに加減を

101114 (Sun) 23:32

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