【新羅←臨也】


「そんなにアレが大切ならさ、首輪でもつけて繋ぎ止めたらいいんじゃないの、あは、ごめん、君の大事な彼女には首が無かったね」

首輪なんてとてもじゃないけど無理だね、なんて嘲笑ってみせれば、鋭いメスが首筋に触れる。暖房の効いた新羅のマンションの一室の中、ひやりと冷たい金属に目を細めた。眼鏡の奥の新羅の瞳はこちらからは見えない。いつもの優男の表情は消え失せていた。

「それは彼女への侮辱ととっても良いのかな? ごめんね臨也、今にも手元が狂いそう」
「おお怖い怖い、悪かったよ新羅。君の愛を試してあげようと思っただけさ。だからそのメスをしまってくれるかな? 首が寒くてかなわない」
「……わかったよ、でも心外だなぁ。君に試されなくても僕の愛は変わらないのに」

ゆっくりと、新羅の手が離れる。それまで刃先の触れていた首筋を指で辿れば、薄皮が一枚、微かに切れていた。

「流石はお医者様。名医だねぇ」
「手加減するのは大変なんだよ?」

新羅の表情がいつも通りの飄々としたものに戻る。俺は背中に流れる一筋の冷や汗を無視した。

「まあ首輪は置いといて、さ。繋ぎ止めるなら……手錠なんてどう?」
「だから臨也、俺にその話をするのはやめてくれないかな。僕は彼女を繋ぎ止めようなんて……思っているけれど、物理的な物に頼るほど落ちぶれちゃいないさ」
「へぇ、」
「なにか言いたげだね」
「いや、何でもないよ」

これ以上下手なことを言って、君の彼女とお揃いの首無しになっちゃたまらない。

そう口にすれば、また新羅の顔から表情が一瞬、消え失せた。


彼の愛を、試す。
その言葉に偽りはなかった。

俺は"新羅に手加減してもらえるかどうか"ということを試していたのだから。
新羅の家を出てから、小さく息を吐き出す。外気との温度差のせいで白く曇った息は、あの女の煙とは違いすぐに溶けていった。

(運び屋とお揃いになって、俺が首無しの化物になれたなら、彼は俺を"友人"以上の枠に入れてくれるだろうか)


首輪や手錠で繋ぎ止めて欲しいのは、本当は、彼女じゃなくて。

首輪と手錠

101107 (Sun) 23:56

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