【静雄→臨也】


壁に手を当てて、ずっと歩いて行けばいつかは抜け出せるのだと。
かつてそんな風に聞いたことがある。だが俺はそれを胡散臭いと思って、聞かなかった。だって遠回りだ。行き止まりを何度も見るのだ、引き返して、歩き回って、無駄だ。
そんなことを、誰が言っていたんだっけ。いつも嘘ばかり吐いていた、あいつが言っていたんだっけ。


あっちかそっちかこっちか、何処を目指せば良いのかわからぬままに手を取り合う。

(出口なんて、知らないよ)
(それでも君は、俺といるって言うの)
(……馬鹿みたい)
(迷っても、知らないからね)

案内人は頼りなく、その手は小さく細く、簡単に折れてしまいそうだった。
普段は何でも知ってるよ、とでも言いたげな顔をして、強がって、弱味なんて見せようともしないで。飄々として、人の神経を逆撫でして。ムカつく、苛々する。

本当は出口なんて知らないんだ。俺も、奴も。
何処に向かうかなんてわからないままに、ぐるぐるぐるぐるさ迷って、行き止まりも何度も味わって、終着点を知らず、ずっとずっと、歩き続けて。


(無駄なことは嫌いなんでしょ)
(はやく、この手を離せばいい)
(手っ取り早く行きたいなら、それこそ)
(この壁を壊してしまえばいいよ)


いつまでも煩いその口をどうやって塞ごうか、それをずっと考えていた。
壁を壊せばいい、
その言葉を反芻する。
そうだ、俺には力がある。
化物だと罵られ、忌み嫌われた力が。
この壁だって、簡単に壊せるくらいの、力が。

(はやく、壊せよ)
(俺を置いて、何処かに行ってしまえ)
(頼むから)

弱々しい、声。
案内人は、とても弱かった。
必死になって繋いだその手に爪を立てて、逃げようとしていた。

「……誰が離すかよ、馬鹿野郎」

逃げだそうとする案内人を担ぎ上げる。まだるっこしいことは嫌いだ。誰がお前の言うことなんて聞いてやるものか。

出口がないなら、作ればいい。

がらがらと、壁が崩れる。
袋小路なんて知らない。

迷い続ける案内人を担ぎ上げたまま、今、俺たちは外に出る。


迷路

101106 (Sat) 14:15

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